約35年前に中国は「一人っ子政策」を導入した。これは漢民族を中心に、1組の夫婦で子供の出産を1人しか認めないという「計画出産制度」である。

 一人っ子政策が導入された背景には、それまでの毛沢東の時代の出産奨励政策によって人口が増えすぎたことがある。1970年代に入って人口圧力が強くなり、長年の政治闘争による食糧難も加わったため、出産を制限しなければ経済成長が難しくなったためである。

 実際の一人っ子政策を見ると、都市部での実施が監視の強化などによって徹底されている。辺鄙(へんぴ)な農村では監視が行き届かないこともあり、戸籍のない「黒孩子(ヘイハイズ)」(闇っ子)も少なくない。しかし、総じて言えば、計画出産政策は機能し、人口抑制にかなりの効果があった。

早くも高齢化社会に突入

 「改革開放」政策の30年間(1979~2009年)、中国では著しい経済発展が成し遂げられた。その一方で一人っ子政策を実施したことにより、中国社会は早くも少子高齢化社会に突入してしまった。国連の推計によれば、中国は2005年にすでに高齢化社会に突入したと言われている。

 夫婦が1人の子供しか生めない結果、単純に考えれば、これから一人っ子同士の結婚がほとんどとなり、若い夫婦が少なくとも4人の老人の面倒をみなければならなくなるという計算になる。

 中国で実施された人口調査によれば、現在の総人口は13億1000万人に上ると言われている。推計によれば、2020年代になると総人口は16億人に達した後、ピークアウトすると見られている。

 出生率は現在、減り続けているが、2016年あたりで1.0を切るようになると推計されている。総人口が減少に転じるのは2020年以降だが、高齢化が進む結果、マクロの人口動態のピラミッドは崩れつつある。

 出生率の低下がもたらす労働力不足の足音はすでに聞こえてきている。経済発展にとって人口「ボーナス」はわずかしか残されていないと見るべきである。

甘やかされて育つ一人っ子

 少子高齢化に突入している中国は様々な社会問題を抱えている。まずは一人っ子の「弱さ」である。特に都市部において一人っ子があまりにも大事にされるあまり、軟弱になっていると言われる。欲しいものが何でも手に入るので精神面が脆弱になり、受験やイジメなどを原因とした自殺が増えている。同時に肥満児も増え、若年性成人病も広がっている。現在、世界の製薬会社が中国に進出しているのはそのためだという声がある。

 そして、社会保障制度の未整備という問題もある。現在、中国の経済成長を牽引しているのは主に投資であるが、その背景には、社会保障制度の未整備による消費縮小がある。1人しかいない子供に介護などを期待するのは、明らかに現実的ではない。多くの中国人は将来の生活に不安を抱いているため、当座の消費を控えているのだ。