あったかもしれない人生――。これまで続いてきた人生を見つめ直し、いったんリセットしたくなるときがある。新しい人生を始めるのは勇気がいるし、不安もある。でも、せっかくなら違った人生を経験するのもいいんじゃないか。

 しかし、新しい人生は自分の外側に落ちているわけではない。人生をリセットするということは、自分の殻を破り、内面にあるもう一人の自分を発見することでしかない。「このまま一本道の人生でいいだろうか」と迷う人、いままさに新しい人生の扉を開こうとしている人。これまで信じてきた価値観を、別の視点から見つめなおすきっかけとなるかもしれないお薦めの少女マンガを2回に分けて紹介しよう。

 「少女マンガ? 女の子が男の子を好きになったとか、そういう話には興味がない」というあなた。いやいやそれは違います。これから紹介するのは、巨悪だったり、化け物だったり、日常の壁だったり、相手はそれぞれ違うが、それらに対峙することで“違う自分”に気づく物語なのだ。

萩尾望都 スター・レッド

 手塚治虫・石ノ森章太郎など不世出の漫画家を数多く輩出した「トキワ荘」はあまりにも有名だが、女性漫画家版トキワ荘ともいえる「大泉サロン」なるアパートが存在したことをご存知だろうか。

 マクドナルド日本1号店が銀座にオープンし、大阪万博が開幕した1970年、東京練馬区ののどかなキャベツ畑が広がる木造アパートの一角に大泉サロンはあった。そこに集うのは、後に“24年組”と呼ばれる昭和24年(1949年)前後に生まれた女性漫画家たちであり、トップバッターで紹介する『スター・レッド』を描いた萩尾望都も大泉サロン中核メンバーの一人である。

 少女マンガの主人公は少女が当たり前という不文律を打ち砕き、少女マンガにおける危うく儚げな少年期の妙を描いた作品群は、当時の少女たちを独自の世界観の中に引きずり込み翻弄した。同じ作家の『ポーの一族』『トーマの心臓』などもその代表作だ。

 一方、女性漫画家におけるSF作品が世に出始めたのもこの頃。今回紹介する『スター・レッド』は総ページ数500ページ超と中編ながら壮大なスケールのSF叙事詩である。

 物語の舞台は今から300年後の近未来。愛情深い養父に育てられた15歳の少女、星(セイ)は、白い髪・赤い瞳、そして超人的な能力を備えた火星人であることを隠し暮らしている。心を占めるのは常に彼方にある赤い星(火星)であり、母星に対する強い執着が異端児である彼女の孤独を深めている。謎の青年エルグと偶然に出会うことで、自身はもちろん、周囲の人間、果ては火星の運命までも変える大きなうねりの中に巻き込まれていく。