慶應義塾大学三田キャンパスの旧図書館(出所:Wikipedia

 安倍首相の憲法改正案で注目が集まっているのは第9条だが、もう1つ見逃せないのは、高等教育の無償化を打ち出したことだ。これは日本維新の会の公約だから、政局的には「維新への多数派工作」と見ることもできるが、安倍首相の思いも同じらしい。

「未来のために人材に投資しよう」という意見に反対する人は少ない。与野党から出ている「教育国債」とか「こども保険」の類も大同小異である。もちろん教育投資は重要だが、そのために「学校」は必要なのだろうか。大学への公的投資に見合うリターンはあるのだろうか。そして憲法改正は必要なのだろうか。

「毎年3兆円の赤字財政」の約束

 安倍首相のビデオメッセージの教育に関する部分はこうなっている。

現行憲法の下で制度化された、小中学校9年間の義務教育制度、普通教育の無償化は、まさに、戦後の発展の大きな原動力となりました。70年の時を経て、社会も経済も大きく変化した現在、子どもたちがそれぞれの夢を追いかけるためには、高等教育についても、全ての国民に真に開かれたものとしなければならないと思います。

 

 高等教育というのは大学(短大・高等専門学校を含む)を指す。ここでは「無償化」という言葉は使っていないが、国会でも首相は維新の公約について「思いは共有している」と答弁したので、これは「大学の授業料を無償化」することと解釈していいだろう。

 文部科学省によると、大学・短大の授業料を無償化するには、毎年3.1兆円が必要になる。これをすべて国費で負担すると、文教予算が8.4兆円になる。これは一般会計歳出の8.6%を占め、公共事業費(6兆円)や防衛費(5.1兆円)を超えて、社会保障関係費を除くと最大だ。つまり高等教育の無償化は、毎年3兆円の財政赤字の約束なのだ。