10月19日の夜、中国人民銀行(中央銀行)は突如として人民元の預金金利と貸出金利をそれぞれ0.25%引き上げた。約2年10カ月ぶりの利上げである。
人民銀行の突如の利上げについて市場の見方は大きく分かれている。
1つの見方はオーソドックスな教科書通りのもの。インフレ懸念が高まっているから人民銀行が利上げを実施したと言われている。
しかし、8月のインフレ率(消費者物価指数)は3.3%であり、警戒すべき水域に達していない。利上げを実施した翌々日の10月21日に発表された9月のインフレ率も、3.6%に止まっている。経済成長が続いている中国にとって、5%以内のインフレは決して悪いことではない。
それよりも、今回の利上げはインフレ抑制というよりも、人民元切り上げの前兆と受け止められている。
これまで、中国政府は人民元の為替レートを低く抑えるために、人民元の金利も引き上げることができなかった。なぜならば、金利を引き上げれば、ホットマネーが流入し、元切り上げの圧力になると思われているからだ。
今回、人民銀行が利上げを実施したのは、元をある程度切り上げる決断をしたからではないかと見られている。
「人民元版プラザ合意」を警戒する中国
人民元を切り上げるべきかどうかについて言えば、経済成長とともに自国通貨が強くなるのは当然のことである。ただし、実際にどれぐらい切り上げるかは、本来は政府が決めるのではなく、市場によって決められるものである。
為替レートは通貨の値段であり、その水準はマクロ経済運営の結果である。政府が為替レートを一方的に上げ下げしても、市場の均衡水準に達することなく、逆に市場の需要と供給が歪んでしまう恐れがある。
現行の人民元レートは「通貨バスケットを参考に決める」というものになっている。しかし、実際の運用を見ると、複数の通貨を基準とした通貨バスケットを参考するというよりも、依然、ドルとのリンクが強い。
温家宝首相は記者会見のたびに、「我々は外圧に屈して人民元の切り上げを実施することはない」と繰り返して強調する。中国政府部内では、人民元の為替相場の調整について、「自主性、漸進性と可控制(コントロール可能性)」という3原則があると言われている。
だが、人民元の為替相場をこのままドルにリンクしていると、金融政策の有効性が妨げられ、国内のマクロ経済を調整することができなくなる恐れがある。したがって人民銀行では、元相場をいくらか切り上げるべき、との意見があるようだ。