菅直人首相は国会答弁で、労働者派遣法の改正案を今国会で成立させる方針を明らかにした。参議院では与党が少数だが、この法案については社民党と共産党が賛成すれば成立の可能性がある。

 今回の法案では登録型派遣、製造業派遣、日雇派遣が原則的に禁止される。対象となる労働者は現在約90万人いる派遣労働者の半分以上に上る。

派遣労働を規制強化しても正社員は増えない

 すでに昨年、政府の規制強化の影響で派遣労働者は24%減り、撤退する派遣会社が相次いでいるが、今回の改正で労働者派遣業というビジネスが成り立たなくなる恐れも強い。

 この規制によって派遣労働者は、正社員になれるのだろうか。朝日新聞社のアンケートによれば、対象となった100社のうち、派遣が禁止された場合に「正社員を雇う」と答えた企業は14社で、大部分の企業はアルバイトや請負に切り替えると回答した。したがって8割以上の派遣社員は職を失って、もっと不安定な身分になる恐れが強い。

 細川律夫厚生労働相は「これは派遣労働者を保護する法案だ」と答弁したが、当の派遣労働者はどう考えているのだろうか。

 東大の社会科学研究所の派遣労働者へのアンケート調査では、「派遣法の改正で失業の可能性があるか?」という質問に対して、53.1%が「かなりある」と答え、「ある程度ある」の26%を加えると、約8割が失業の不安を感じている。

 派遣が禁止されたら、コストのかかる正社員にするよりも請負やアルバイトに切り替えるのは当然だ。民主党は、なぜ当の派遣労働者の8割が望んでいない規制強化をするのだろうか。

契約社員を規制したら短期のアルバイトになる

 他方、厚労省は、先月発表した「有期労働契約研究会」の報告書で、すべての契約社員の雇用を、季節的、一時的な業務に限定する入口規制とともに、有期雇用契約の更新を禁止して、3年間雇用した労働者は正社員としての雇用を強制する出口規制を行う方向を打ち出した。この対象となる契約社員は1600万人と推定され、派遣社員よりはるかに社会的影響が大きい。