昨年12月5日にロシア正教会総主教・アレクシー2世が亡くなった。後継者は今年1月27日から29日まで開催される全国教会総会において、秘密投票で選ばれる。即位式は2月1日に行われる予定だ。
秘密投票は2回行われる。だが、その結果はもう明らかである。次期総主教になるのは、12月6日から総主教代行になったキリル大主教だろう。その確率はほぼ100%と言ってもよい。誰もがそう思っていた。
なんと日本人の候補が支持率1位に
ロシア正教の規約では、総主教の選挙はできるだけ一般のロシア正教徒に参加してもらうことが望ましいとしている。今回は時代の流れに沿って、ウェブで投票をやろうということになった。ロシア教会だけではなく他の教会も、教会を宣伝し、若くて新しい信者を引き集めるためにネットを積極的に使っている。
ロシア正教会は、ロシア総主教の選挙に当たって特別のサイト(www.zapatriarha.ru)を設置した。そのサイトには、次期総主教の資格がある34名の大主教と77名の府主教の候補の写真が載っている。写真の下のボタンをクリックすると、その候補に1票が入るという仕組みだ。要するにネット上の人気投票である。
最初は予想通り、キリル大主教がリードしていた。しかし1月13日に突然、候補者の列のはるか後方に掲載されていた東京の大主教、ダニイル主代郁夫(ぬしろ・いくお)が77%以上を集め、キリル候補の人気をはるかに上回って、トップになってしまったのである。ダニイルは日本教会を代表する主教だ。
ロシア正教会では大騒ぎになり、サイトの管理者はダニイル大主教の写真の下に「投票数を恣意的に上げるハッカー攻撃があった」と書き付けた。15日までにダニイル大主教への投票をマニュアルで削除したりしていたが、また大量の投票があり、70%台へと支持率が上がってきた。
そこで16日にはダニイル候補の支持率を削除し、票数だけを残して掲載した。同時に、キリル候補の支持率は、一気に10倍の58%(1万5269票)へと押し上げられた(修正された)。しかし、ダニイル候補の獲得票数は2万3799票と、キリル候補を追い越したままだった。
こうした不思議なことは、ネット上でたまに起きている。去年12月、プーチン首相のウェブサイト内の地図に、北方4島が日本の領土として明記され、ロシアは大騒ぎになった。数日間、サイトはそのままだったが、結局、地図全部が削除された。
投票したのは日本アニメのファン?
ダニイル大主教の写真は削除されないだろう。その必要はない。必要なのは、ロシア文化の中核をなすロシア正教の総主教選挙で、どうして日本人候補の人気が突出して高いのかを解明することである。ただのいたずらなのか、その背景には何かが隠れているのか。
現実的には日本人がロシア正教総主教になるのは夢のような話であり、まずあり得ない。だが、理論的には可能であり、可能性がまったくのゼロとは言えない。