「明らかに無理難題、因縁、言いがかりをつけてくる手合いもいる。けど、それに屈するわけにはいかない。・・・そこで1回でも引いたり妥協したら、もうおしまいだからね。・・・それをすべて乗り切ってきたからこそ、今があるわけでね」

 引退したある元北京駐在日本大使の「回想」と言いたいところだが、実はこれ、都内で二十数年事務所を構える広域系3次団体の実力組長の言葉だそうだ。9月23日に所用で秋田県を訪れた夜、何の気なしに買い求めた文庫本の一節である。

任侠型外交交渉

 題名はズバリ、『ヤクザに学ぶクレーム処理術』(山平重樹著)、実に面白い本だ。あまりの面白さに一気に読み終えてしまった。ここに描かれている任侠世界の交渉ロジックは、筆者の知り得た日中外交交渉過程となぜかよく似ている。これは単なる偶然だろうか。

 同書ではこの道30年のベテラン任侠専門ライターの見方も引用されている。

 「こっちの言い分が聞かれないんだったら、こっちのやりたいようにやるし、気にくわないとなったら、そうでないようにするまでのこと、彼らの結論はそれです」

 なるほどね、確かによく似ているなぁ。

巡視船の修理費請求へ、「ボールは中国に」 官房長官

海上保安庁の巡視船に体当たりした中国の漁船〔AFPBB News

 誤解しないでほしい。日中外交関係者が「アウトローだ」などと言っているのでは決してない。筆者には、中国以外にも、欧米諸国、在日米軍、世界貿易機構(WTO)、サダム・フセイン時代のイラクやレバノンのヒズボラなどと交渉した経験がある。

 やはり日中交渉には独特のルールとロジックがあるようだと申し上げているのだ。

 そんなことを考えているうちに、那覇地検は9月24日、拘束されていた中国漁船の船長を「処分保留」で釈放してしまう。しかも、検察が「日中関係を考慮」して独自に決断したというのだから、2度驚いた。

 政治的関与があろうとなかろうと、送検した以上は略式でも起訴まで持っていかなければ、そもそも喧嘩にならない。