日本の不動産市場は長らく低迷が続いている。日本人の住宅取得能力は2001年をピークに下がり続け、バブル崩壊後の地価下落で、大企業にとっては土地資産保有のうまみがなくなった。

 少子高齢化を見通せば、今後、内需のみで不動産市場の維持・拡大を図るのは困難だ。そこで今、不動産市場では、中国マネーへの期待が高まっている。

ついに「うちのマンション」もターゲットに

 「中国企業が物件を探しています」――。

 9月上旬、中古物件を探すチラシが東京都の城北地区のマンションにポスティングされた。中国企業が従業員の社宅を探しているというそのチラシは、テレビコマーシャルでもおなじみの大手不動産会社が作ったものだ。

 このチラシを見て、複数の住人が色めき立った。住人のAさん(42歳)は、特に「至急、売却物件を探しています」の文言に心が揺れた。

 「10年も過ぎると中古マンションは売りづらい。即決で買ってくれるという話は魅力的。現金払いも多いと聞いているし」

 昨今、「即金で不動産投資をする中国人注1)」の姿がよく報道されており、中国企業は潤沢な資金を持っているというイメージが広がりつつある。Aさんもそんなイメージを抱いている1人。「即決即断、現金決済」と言われる中国人への売却は、渡りに舟なのだ。

 だが、同じマンションに住む70歳の主婦Bさんは、「これ、マズいんじゃないの」と不安を隠さない。

 Aさん、Bさんらが住むのは「静寂と瀟洒」が売りの高級マンションだ。Bさんは「何かトラブルがあった時に話せば分かり合えるモラルのある住民ならいいんだけれど」と漏らす。Aさんは売り抜ければそれでいいだろうが、Bさんは後に残される。どんな中国人が住むことになるのか、気がかりだという。

容易ではない中国からの資金持ち出し

 中国人の目に、日本の不動産はどのように映っているのか。「東京のマンションは質が高い。合理的な間取りや設計が人気」という評価もある一方で、「本当に日本の不動産には魅力があるのか」と疑問視する声もある。税負担、組合費、修繕積立金などランニングコストが中国本土以上に高い上、投資利回りは欧米より劣るからだ。

 だが、それ以上にボトルネックとなるのは、人民元から外貨への両替だ。

(注1) 日本国内でローンを組める外国人は、日本国籍者か永住資格保持者が対象。ちなみにHSBC(香港上海銀行)は2009年、「永住資格がなくとも1000万円以上の金融資産を持つ在日外国人」を対象に不動産ローンを開始した。