日本の国会で建設的な政策論争が行われることは少ないが、今度ほどひどい国会も珍しい。2014年7月の閣議決定の段階で解釈を変更した安保法案を、野党が「憲法違反だ」とか「解釈改憲は許さない」などと騒いだからだ。

 このきっかけは、国会審議が終盤になってから与党側の参考人として招いた長谷部恭男氏(早大法学部教授)が「安保法案は憲法違反だ」と述べたことだが、これは一研究者の意見にすぎない。野党が「強行採決反対」のプラカードを振り回した国会は、とても見るに耐えないものだった。

論理的に矛盾している憲法学者

 長谷部氏の事件をきっかけに、マスコミはいろいろな憲法学者の意見を紹介し、朝日新聞は次のようなアンケートを掲載した。この記事について「不都合な結果を隠している」と批判があったため、同社はその詳しい内容を実名入りで掲載した。

 安保法案については、122人中119人が「憲法違反(可能性も含む)」としているが、興味あるのは自衛隊についての回答だ。自衛隊が「憲法違反」とする人が50人、その「可能性がある」とする人が27人いるのに対して、それ以外の答は45人である。

憲法学者122人へのアンケート調査の結果(朝日新聞)

 常識的には、自衛隊は憲法第9条第2項で禁じる「戦力」にあたるので、それが憲法違反(の可能性がある)と答えた77人は「憲法9条を改正する必要がある」と答えると思われるが、そういう答は6人しかない。このうち「憲法違反の可能性がある」と実名で回答した17人の中で「改正が必要」と答えたのは2人だけで、「憲法違反」と実名で断定した42人のうち「改正が必要」とは答えた人は1人もいない。これはどういうことだろうか。

A. 憲法は正しい
B. 自衛隊は憲法違反だ

という2つの命題から導かれる結論は、三段論法で考えると

C. 自衛隊は廃止すべきだ

ということしかない。

 残念ながら朝日新聞のアンケートにはそういう質問がないので、彼らがそう答えるかどうかは不明だが、少なくとも「憲法違反(可能性も含む)」とした77人のうち「改正が必要」と答えた6人以外の71人は、自衛隊はないほうがいいと考えているはずだ。これは回答者の58%である。

 それなら憲法学者は「自衛隊を解散せよ」という論文を書くべきだが、私の知る限りそういう学術論文は見たことがない。彼らの主張は、明白に矛盾しているのだ。そもそも憲法学者の過半数が非合法と考えるような軍隊が24万人もいる国が、法治国家と言えるのだろうか。