中国政府の情報産業省に当たる工業和信息化部の統計によれば、携帯電話の契約数は既に8億を超えているという。農村部でも広く普及する携帯電話は、中国人消費者にとって(ノート)パソコンやデジタルカメラよりも普及している最も身近なITツールと言える。

携帯電話はステータス証明書

バスの中で携帯電話を操る中年の女性。携帯電話はステータスの証しだ

 中国の消費者にとって携帯電話とは、通話するツールであると同時に「ステータス証明書」である。

 望もうが望むまいが超格差社会となっている中国において、おカネ、つまりは身なりがその人の身分を示す重要なステータスとなっている。

 中でも携帯電話こそが最も身分を残酷かつ正直に表現する。

 特に若者の世代において、他人から貧乏と思われると、日本と異なり完全にアウトだ。

 学歴が違ったり農村部出身だったりすると、興味や常識の違いから、話がかみ合わないことが日本よりも顕著で、たとえ同世代でも仕事相手として相手にされないし、恋人の対象とも友人の対象ともならない。

地方出身者ほど高い携帯電話を買う

高価な携帯電話だけを扱う店。中国人の性癖をよくとらえている

 筆者の話す中国語は、内陸なまりがあるため、上海のような大都会で中国語を話すと、レストランの店員からさえも嫌そうな顔をされるのだが、ここで「すみません」と一言でも日本語を話せば態度は豹変してウェルカムとなる。

 こうした事象は当の中国人も自認するところ。

 こうした背景から、中国では最も後方に近いスタートラインのある農村部出身の出稼ぎ労働者は、都市部の人々に見下されないように、背伸びをして高い携帯電話を買おうとする。

 つまり安価な白黒液晶の携帯電話ではなく、カラー液晶で飾った外観の、「SANY」や「NOKLA」などどこかズレたメーカー名の山寨機(ノンブランドケータイ)や、無名の中国メーカーの製品を持ち、「決して貧しくも学も能もないわけじゃないんだ」と無言のアピールをする。