次の発言を読んでみてほしい。8月8日香港の雑誌「鳳凰」に掲載された、ある大陸中国人の言葉だ。ちなみにこの話、なぜか日本ではほとんど報じられていないようだ。(文中敬称略)
●10年以内に(中国の)権威主義政治が民主政治に変わるのは不可避である(10年之内,一场由威权政治向民主政治的转型,不可避免地要发生)
●米国の成功の秘密は、ウォール街やシリコンバレーなどではなく、長く続く「法の支配」とその背後にある「制度」である(美国成功的秘密不在于华尔街,也不在于硅谷,在于长盛不衰的法治和法治背后的制度)
●国民が自由に呼吸できず、創造力を最大限発揮できないなら、その制度は必ず滅びる(一个制度如不能让公民自由地呼吸并最大程度地释放公民创造力,・・・就必然灭亡)
これは親米・反政府系の民主運動家ではない。れっきとした高級軍人、それも人民解放軍国防大学の劉亜洲・政治委員の発言である。劉亜洲は現役の空軍中将、つい最近、解放軍空軍の副政治委員ポストから栄転したばかりだ。
一昔前は対外強硬派若手将官のリーダー格として国際的に有名な論客だったが、なぜか5年ほど前、突然論壇から姿を消した。その劉亜洲が久しぶりに、中国本土でも人気の高い香港雑誌に登場し、共産党指導部を暗に批判したのだから、中国国内でも驚いた人は多いだろう。
なぜ今、劉亜洲なのか
筆者がこの劉亜洲に注目する理由はいくつかある。ちょっと考えてみてほしい。この発言には多くの疑問があるではないか。例えば、
(1)なぜ一介の空軍将官が共産党現指導部を半ば公然と批判できるのか
(2)なぜ、劉亜洲は5年間もの沈黙を破って、今回敢えて批判を口にしたのか
(3)なぜ人民解放軍の現役幹部が、米国ではなく、中国の政治制度を批判するのか
(4)なぜ共産党員である劉亜洲が米国型民主主義をかくも礼賛するのか
こうした疑問に答えるためには、まず中国国内の外交・軍事戦略に関する論争を正確に理解する必要がある。