2012年末の総選挙で、自民党の安倍晋三総裁が「輪転機をぐるぐる回して日本銀行に無制限にお札を刷ってもらう」と宣言したことが、アベノミクスと呼ばれる経済政策の原点だった。彼によれば、日銀がお札を刷れば日本経済は「デフレ脱却」し、経済は一挙に回復するはずだった。
それから2年たち、日本経済は改善したのだろうか。11月のコアCPI(生鮮食品を除く消費者物価指数)上昇率は0.7%と10月より0.2%下がり、日銀が目標としている2015年3月にはゼロに近づくだろう。貿易赤字は史上最大を記録し、2014年度の実質成長率はマイナスになる見通しだ。何が間違っていたのだろうか?
アベノミクスの目的は円安誘導による「日本売り」
2年前に安倍氏が経済を理解していたとは思えないが、側近にはリフレ派と呼ばれる奇妙な経済理論を信じる人々がいた。それに乗って彼は「デフレ脱却議員連盟」の会長になり、リフレを政策の看板に掲げた。
彼のブレーンになった浜田宏一氏(内閣官房参与)は「日銀がエルピーダをつぶした」と公言し、円高を放置したことがデフレの原因であり、金融を緩和すれば日本経済はよみがえると主張した。
翌年4月に黒田東彦氏が日銀総裁に就任して「2年で2倍」の量的緩和を約束したとき、その狙いは物価ではなく為替レートだった。かつて財務省で「円高ファイター」として活躍した黒田氏にとって、1ドル=80円台の過剰な円高が景気回復の障害になっていることは明らかだった。
しかし政府が為替レートの操作を行うことは通貨の切り下げ競争を招くので、「2%のインフレ目標」という暗号で、世界の投機筋に「日本を売れ」というシグナルを出したのだ。日銀が際限なく円を供給する政策は円売り介入のようなもので、1年半で1ドルは120円まで50%近く上がった。
日本株が割安になったため、株式市場の主役である海外投資家が株を買い上げ、日経平均株価も2倍近くまで上がった。これによって輸出産業は競争力を回復し、日本経済は一挙によみがえるはずだった。
ところが株価以外のマクロ経済指標は、ほぼ全滅だ。政府はあわてて「円安対策」の補正予算を組んだが、日銀が円安誘導しておいて円安対策とは、笑止千万である。それなら最初から、円安に誘導しなければよかったのだ。