グルジアのギオルギ・マルグヴェラシュヴィリ大統領が今週来日した。まずはこの慶事を言祝ぎたい。ホスト国の我が国にとってはもちろんのこと、親日家の多いグルジアの人にとってもたいへん嬉しいニュースであり、両国関係が進展する1つのきっかけに是非なってほしいものである。

 もう1つ、グルジアについては新しいニュースが届いた。政府はグルジアの呼び名をジョージアに変更し、在外公館などを含めて名称に関連する法律の改正案を次の国会で提出するらしい。

 最近ワインや力士の活躍で知名度が上がりつつあるといっても、グルジアはいまだ知る人ぞ知る国であるし、日本との直接の結びつきはだいたいこの20年くらいのものだろう(丸2年間留学したのは管見の限り筆者が初めて)。したがって、一見名称変更に大きな影響はないようにも思える。

呼び名の変更はときには過去の歴史との決別すら意味する

 もっともスターリン期にグルジアに住んでいた日本人庭師のエピソードや、登山や芸術を通した知られざる交流に加え、ソ連期から長期滞在した研究者も複数存在し、グルジア語の文芸作品が20世紀に日本語に直接翻訳され紹介されたこともある。

 呼び名を変えるということは、大げさに言えば過去のこうした蓄積を断ち切ることにもなりかねない。もちろん変更自体は現地の言葉に合わせるという理由でこれまでも少なくなく、この20~30年の間でも、ミャンマーなど日本語での呼び名が変わった国もある。

 ただ、それにしてもロシア語風(報道では「起源」とするものだとあるが~NHKなど~これは誤解)を英語風に変えるというのはいくら「グルジア」の政府が国民感情に合わないからと要請してきたとはいえ、いささか理解に苦しむ。

 今回のグルジア側の要求がいかに奇妙かは「反対」を考えてみれば分かりやすい。グルジア語で日本はイアポニア(იაპონია、iaponia)と呼ばれている。これはもちろんロシア語イポーニャに由来するだろう。

 この呼び名を「ニホン、ニッポン」ではなく、ロシア語由来は国民感情に合わないという理由で英語風に「ジャパン」に変更してほしいと日本政府が要求するようなものである。

 ただし、ロシア語のイポーニャも英語のジャパンも間接的にニホンに由来するが、「グルジア」の問題の分かりにくい点は、自称と他称が異なり、さらに他称にも様々なバージョンが存在するという複雑な点にある。

 せっかくの機会なので問題を簡単に整理してみよう。ただし、筆者にとっては専門外であるので、一般的な説明に依拠していることをあらかじめお断りしなければならない。

 グルジアの自称はサカルトヴェロ(Sakartvelo、საქართველო)である。これはカルトリという中心地域名に由来し、「カルトリ人の国」を意味する。「ヤマト」で日本全体を言い表すのと同じような発想と言える。