ローマのオペラ座(ローマ歌劇場)が、大変なことになっている。10月3日、オーケストラとコーラスのメンバー184人が、全員解雇されてしまったのだ。オペラ座からオーケストラとコーラスを取ったら、はっきり言って何も残らない。

 予兆はもちろんあった。上演中止が頻繁に起こっていたし、客席の上から抗議のビラが撒かれたこともあったという。何に対する抗議か? 緊縮財政のため、オペラ座への公的補助が大幅に削減されていたことに対する抗議だ。

労組が妥協案を拒否、存続の危機に陥るローマ歌劇場

ローマ歌劇場(ウィキペディアより)

 イタリアでストライキが多いのは、今に始まったことではない。今月だけを見ても、航空ストが5日ぐらいは計画されている。遅延で有名なイタリア鉄道は、ストの多いことでも有名だ。

 その伝統にもれず、オペラ座でも、団員の労組や、他の従業員の労組が、予算切り詰めに反対し、あるいは、待遇改善を求めて、ストを繰り返した。

 ローマのオペラ座は、すでに3000万ユーロの借金があるそうだ。ヨーロッパのオペラの上演は、どこも昔は王侯貴族がパトロンとなって、お金を湯水のように注ぎ込んで成立させてきた。

 その伝統を受け継ぎ、オペラを常設として持つ現代ヨーロッパの自治体も、補助金なしで経営を黒字にすることは、もちろんできない。オペラは上演すればするほど、赤字になるものだ。

 恒常的な借金を抱えているという点では、ドイツも事情は同じだ。2011年、ケルンのオペラ座が100万ユーロの赤字を出して危ないと言われた。しかし、ローマの3000万ユーロというのは凄い。日本円に直せば、40億円以上。オペラなどなくても、別に市民の生活に支障のないことを思えば、緊縮はやむを得ないだろう。

 報道を読むと、多くの団員はオペラ座救済のための妥協案に合意しようとしたが、各労組がそれを悉く拒否し続け、事態はどんどん紛糾したらしい。その挙句、上演が妨げられ、ドタキャンが頻発した。

 今年5月の日本公演では正規団員が欠け、代替要員を多く投入したという。いずれにしても、内部の雰囲気はささくれ立ち、あちこちで不平不満が渦巻いていた。

 そうこうするうちに、9月23日には、同オペラ座の終身名誉指揮者であるリッカルド・ムーティがしびれを切らして辞任した。世界的名声を誇る指揮者だから損失は大きい。辞任の理由は、落ち着いて音楽をする前提が失われてしまったというもの。