1年ほど前、中国の民間金融市場の実態を調査するために、湖南省で中小民営企業相手に高利貸しを営む経営者を北京に呼び、ヒアリングを行ったことがある。そのとき、ほとんどの参加者が知りたかったことの1つは、融資する相手をいかに審査するのか、ということだった。
その方法を聞くと、経営者は開口一番「私の貸し出しはほとんど焦げ付くことはない」と自慢げに言った。そして、「まずお金を借りに来る人の人相を見る。人相の悪い人にはお金を貸さない」と滔々と教えてくれた。それを聞いて、筆者はなるほどと思ったものである。
個人的に出会ったことのある中国の政財界人の中で人相の良い人と言えば、昔、上海市長を務めたことのある汪道涵(おう・どうかん)氏である。上海市役所で接見したとき握手したら、その手は80歳の老人の手と思えないほど柔らかかった。その顔は清潔感が漂い、常に微笑んでいた。決して作った笑顔ではない。
汪氏は晩年、両岸関係協会の会長を務め、台湾との交渉の窓口となった。その相手役は台湾の海峡交流基金会理事長の辜振甫氏だった。辜振甫氏とは経団連の講演会で一緒になったことがあるが、中国の標準語(マンダリン)、台湾の閩南語、日本語、英語のすべてに堪能で、しかも品格のある話し方だった。例えば同氏は人の考えを批判するときも「こいつは馬鹿だ」などとは言わない。決して声を荒げることはなく、「この方は愚かですね」と言うのだ。辜振甫氏の人相もたいへん良かった。
余談だが、今の日本人は日本語をお粗末にする傾向がある。以前の都知事はテレビの前でも平気で「馬鹿野郎」と発言し、いかにも品がなかった。
イケメンでも人相が悪くなる
「イケメン」の人が必ずしも人相が良いとは限らない。中国の政治家でイケメンと言えば、薄煕来氏だろう。2013年、巨額の収賄と横領の罪に問われ、無期懲役の刑が確定した重慶市の元党書記である。
日本の財界でも薄氏のファンは少なくなかった。しかし、薄氏が拘束される直前に出席した全人代の映像を見ると、その人相は以前よりも信じられないほど悪くなっていた。自分が逮捕されることを予知して機嫌が悪くなり、それが顔に出たという表情ではない。その目に、憐憫の情や人への思いやりはまるで感じられなかった。