7月17日のマレーシア航空MH17便の撃墜から1カ月以上が過ぎた。報道される限りでは事故の原因究明は一向に進んでいないようだが、この事故を契機に米国・EUはロシアに対する追加経済制裁を発動、これに対しロシアは8月7日、米国・EU・ノルウェー・カナダ・オーストラリアからの食料品輸入を禁止する対抗措置を発動した。
ウクライナ国内での政府軍と反政府部隊(親ロシア派)の内戦は、ロシア対西側諸国の経済戦争へと発展してしまった。
ロシアビジネスに関わるビジネスパーソンにとっては、この経済戦争の行方が大きな懸念材料であることは言うまでもない。モスクワのスーパーマーケットなどで買い物をした経験がある人ならすぐに分かることだが、並んだ食料品の多くは輸入品である。
米国、EUはもちろん、CIS諸国、イスラエル、アジアなど、世界中からあらゆる食料品を輸入している。こうした状況下で、特にシェアが大きいEU・米国からの食料品輸入を止めるということは自らの首を絞めることに等しい。
ウラジーミル・プーチン大統領はいかなる勝算を得てこうした措置に踏み切ったのであろうか?
本稿では米国・EUによる対ロシア経済制裁がロシア経済に与えた影響、そしてロシアによる対抗措置がロシア経済そして世界経済に与える影響を各種報道から概観してみたい。
米国・EUの対ロシア経済制裁
7月に発表された米国・EUによる追加経済制裁のポイントはロシアの政府系金融機関・エネルギー企業というロシア経済の基幹産業を経済対象としたことである。具体的には政府系金融機関の米国・EU市場における資金調達の制限、エネルギー企業に対する技術供与の制限である。
こうした措置は米国・EUの目論見通り対象企業に大きなダメージを与えているようだ。例えば「VEB(ロシア開発対外経済銀行)の2014年上期の収益は前年比70%減」(8月15日付モスクワタイムズ=MoscowTimes)となった。
しかしその一方で「制裁対象のVTB(対外貿易銀行)、イタリア高級ファッションブランドRobertCavalliを買収検討」(8月12日付モスクワタイムズ)という報道を見る限り、ロシアの金融セクター全体に制裁の効果が行き渡るには今しばらく時間がかかりそうである。
一方、エネルギー企業の状況は深刻で、「国営石油会社ロスネフチ、政府に420億ドルの資金援助を要請」(8月14日付ロイター)と報じられている。
政府系金融機関への制裁の副次的影響としてロシアの優良エネルギー企業であっても海外での資金調達は困難となっており、多額の運転資金と開発投資を必要とするエネルギー企業には大きな痛手となる。
ロシア政府がこの支援に応じるかは定かではないが、ロシアの基幹産業である石油産業にネガティブな影響が出始めると、ロシア経済全体に波及するのは時間の問題であろう。まさに米国・EU政府当局の狙い通りである。