ドイツでも医師不足が深刻な問題となっている。

 日常的な長時間労働に加えて、ローテーションでの夜勤や休日の勤務。さらには緊急時の呼び出しと・・・日本と同様、医師の労働環境は過酷だ。さらに、厳しいヒエラルキー社会で、若手医師は1カ月に3度もの週末勤務を命じられたり、3年連続でクリスマスや年末年始を出番にされたりと、家族や恋人と過ごす時間を犠牲にし、人間らしい生活すら保障されない。

先進国の財政をむしばむ医療費、OECD調査

(資料写真)〔AFPBB News

 こうした現状を嫌って、職業として医師を選ぶ人が年々減少、医師不足が加速しているのだ。そして、慢性的な医師不足が医療現場の環境を一段と厳しくし、受診拒否や医療ミスなど患者にもしわ寄せが及んでいる。

 「医師不足を少しでも緩和したい」という病院側のニーズと、「勤務医として病院に縛り付けられず、もう少し人間らしい働き方をしたい」という医師側のニーズに目をつけ、ドイツでは2005年頃から、医師不足の医療現場にドクターを派遣する「医師派遣サービス業」が花盛りだ。2010年7月時点で約30社が派遣事業を行っている。

 まるで日本と鏡映しのようなドイツの医師不足の実態と、医師自らが設立した派遣会社として注目を集めている「ドック・トゥ・レント」を紹介しよう。

5000人の医師不足で、派遣医師が急増中

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(資料写真)〔AFPBB News

 ドイツ連邦医師会によると、2008年のドイツ国内の医師数は42万1686人で前年比1.99%増加したが、それでも5000人以上の医師が不足しているという。

 ドイツ医療報酬連邦連盟の推計によると、ドイツ国内では1日平均500~800人の医師が「派遣」の仕事をしているという。「派遣」を本業、あるいは副業として報酬を得ている医師は、2009年末で4000人にも上る。今後は一段と増加する見通しだ。

医療財政縮減で、現場医師は疲弊

 医師不足の背景は重層的で複雑だが、その根本原因は医療財政の縮小にある。少子高齢化により、経済成長は鈍化しているのに社会福祉コストが膨張するという、悩ましい財政構造問題は多くの先進国が共通している。ドイツでは医療費を圧縮するため、1996年から、疾患ごとに定額の報酬を支払う「包括支払制度」を導入した。

 例えば、「虫垂炎=○○ユーロ」と定価が決まっているので、手術に何時間かかろうが、手術室に何人のスタッフを投入しようが、病院の収入は変わらない。それまで診療報酬稼ぎのために横行していた無駄な投薬や過診療を圧縮するのが狙いだった。