タイで軍事クーデターが発生した。現在までのところ、大きな混乱も生じていないために、経済への影響は限定的との見方も広がっている。しかし、中長期を見たときに、経済成長に悪影響を及ぼすことは明らかだ。タイは「中進国の罠」にはまった。
アジアは1980年頃から奇跡の成長を続けてきたが、ここに来て成長の鈍化が顕著である。その代表がタイと中国だ。両国ともに1人当たりのGDPが5000ドルを超えて、先進国の目安となる1万ドルまで、あと一歩というところに来た。開発途上国の優等生である。
しかし、真に先進国になるためには「中進国の罠」を乗り越えなければならない。アジアにおける「中進国の罠」とは、経済発展に伴い農工間格差が広がり、政治が不安定化することである。
必然的に生まれる都市と農村間の経済格差
経済発展とは、ごく簡単に要約すると、農業が主な産業であった社会から工業やサービスが主体となる社会に変わることに他ならない。その初期においては、サービス業よりも工業の発展が著しい。
工業やサービス業は都市部で発展する。そのために、経済が発展すると都市と農村間の経済格差が広がる。これは必然的に生じる現象である。農村が貧しくなることは政策の失敗ではない。
そして、この道理が分かれば、農業は成長産業にはなれないことは自明だろう。今になっても「農業を成長産業に!」など馬鹿げたことを言い出す輩がいるが、そのような輩は経済発展の意味が全く分かっていない。
ここで、アジアがコメを作ってきたことが重要になる。コメは小麦など他の穀物に比べて人口扶養能力が高い。それゆえに人口密度が高くなり、結果として人口が多くなる。それは農民の人口が多いことを意味する。
経済を発展させるためには、まずはクーデターがしばしば起こるような政情不安を改めて、しっかりした政権をつくることだ(軍人による開発独裁もOK)。次は外資と技術の導入。それと同時に、教育の普及も重要である。教育の目的は豊かな人間性を育てることではなく、勤勉な労働者をつくることだ。