4月下旬のオバマ大統領によるアジア歴訪の狙いは何だったのだろうか。

 わが国にとって見れば日米同盟の強化であり、その後の韓国、マレーシア、フィリピン訪問も、基本的には米国とこれらの国の関係強化を図ったものと言える。とりわけ、中国と緊張関係にあるフィリピンにとって、この機会に米比間に新たな防衛協定を締結し、1992年に米軍が撤退して以来、ローテーション配備ではあるが米軍がほぼ「常駐」する態勢ができ、安全保障上の「後ろ盾」として米軍の関与が期待できる状況となった。

 その意味で言えば、オバマのアジア歴訪の目的は、中国の軍事的台頭をにらんで同盟国・友好国との関係強化を図ることで米国のコミットメントを「再保証(reassurance)」することであったと言える。

 2013年秋のAPEC首脳会議を国内政治(予算案)問題でキャンセルしたこともあって、2011年秋に打ち出した米国の「アジア回帰」(当初は“Pivot”のちに“Rebalance”)政策の実現可能性に疑念を持たれていたことを覆す意図があった。

外交常識を外れた行動でますます孤立

 しかしながら、オバマのアジア歴訪が持つ外交・安全保障上の意味合いが、中国にストレートに伝わることはなかった。これは明らかにオバマ外交の失策である。

 なぜそうなったかと言えば、オバマ大統領自身が各国での発言において、米中関係の重要性を強調し、米国の政策が中国包囲網を構築するものではないことを必要以上に発信したからだ。

 結局、オバマ訪日が日本の対中抑止力強化に有効であったとは言えない状況が生じている。オバマ訪日直後に、尖閣諸島海域で中国の公船「海警」が繰り返し領海侵犯したのがその証左だ。また5月7日には南シナ海の西沙諸島近海に深海探査掘削リグを設置したことで、ベトナムと中国の公船が海上で激しい衝突を繰り返した。中国の「力ずく」の行動は、オバマのアジア歴訪で抑制されるどころか、むしろ活発化している。