中国の憲法によれば、中国は、リーダーである「工人」(工場労働者)と農民の協力を基盤とする人民民主専制の社会主義国家であると言われている。

 しかし、共産党は実質的に唯一の合法的な政治政党である。その他の民主党派は名義上存在しても、共産党の指導を受けなければならない。したがって、民主党派は本当の意味の野党ではない。共産党員以外の人民は、民主主義の権利を享受できる保証はない。

 中国の政治体制は本音と建前が曖昧かつ複雑に入り混じっているため、その人事と政策の意思決定は非常に分かりにくい仕組みになっている。

 かつて、毛沢東の時代や鄧小平の時代においては、指導者の権威とカリスマは不動のものであり、すべてだった。ポスト鄧小平の時代になってから共産党は集団指導体制に移行したと言われている。だが、その集団がどのようなメンバー構成になっているかは明らかではない。

 中国の政治学者によれば、胡錦濤前国家主席の任命は鄧小平によるものだった。しかし、それについて鄧小平が署名した文書が公表されていない。そのため、この人事が鄧小平によるものという説の真偽は明らかではない。百歩譲って胡錦濤前国家主席の人事が鄧小平によって決められたものだったとしても、現在の習近平国家主席の人事がどのように決まったかはさっぱり分からない。

 もしも集団指導体制が機能しているとすれば、その人事は胡錦濤政権時代の共産党中央常務委員会(9人の常務委員)の話し合いによって決まったものと考えられる。しかし、当時の常務委員会でどのような話し合いが行われ、どのような理由で習近平を国家主席に指名したのかについては文書が残っていない。

 おそらく習近平自身も、自分が国家主席であることの正統性を十分に説明できないだろう。人事が適正であることを十分に立証できなければ、指導者本人の権威が確立できない。この点は、中国政治が不安定化する大きな要因であろう。