北米報知 2014年1月1日1&2号

 日系史130年を越し、全米第4位の日系人口を誇るワシントン州。日系コミュニティーも多数存在する同州だが、日系人に絡むドメスティック・バイオレンス(DV)問題への支援が進んでいるとは言い難い。暴力から逃れることは危険と困難を伴う上、周囲の理解や支援を十分に得られないことなども関係し、被害者の孤立を一層深めている。

DVとは

 DVとは、配偶者や恋人など親密な関係にある人から受ける暴力を指す。日本語では「家庭内暴力」と訳されることがあるが、決して夫婦に限った問題ではない。英語では「Domestic Violence」以外にも「Date Violence」「Intimate Partner Violence」などと言い方はさまざまで、結婚の有無やカップルの形態などは関係ない。家族や親戚などからの暴力も含まれる。

 ワ州では「MandatoryArrest Law」が定められており、実際に暴行・傷害が起こったり、身の安全が脅かされるという恐怖心を与える行動がとられたと判断された場合、加害者の疑いのある者は強制逮捕されることになっている。

 だが、実際に報告されるケースは全体の3割程度と言われている。ワ州では2012年、DVに絡む事件で少なくとも53人が死亡。家族や子供らを除くと、女性被害者は27人。2名の男性を圧倒的に上回る。

極端な孤立状況

 DV被害に遭っている方の支援などを行う非営利団体「API Chaya」には、2012年で約3250件の相談が寄せられた。DV以外にも人身売買、性的虐待など、相談者の抱えている問題はいずれも深刻だ。

 DV問題に関しては、日系人からの問い合わせも多数寄せられている。日系人クライアントを担当するアドボケイト(相談員)のゆきえさんは「抱える事情や置かれている状況はそれぞれ異なるが、すでに極端な孤立状態にあるか、孤立状況に追い込まれていくという点は共通している」と話す。

 背景には、日系社会では「DV問題は身内のことで、周囲に話すことではない」という意識がまだまだあるのだという。誰にも話せず、一人抱え込んでしまう人は少なくない。

 とりわけ単身移民者は家族や親戚が近くにおらず、米国の法律やシステムの知識を持ち合わせていないことなども多い。英語力が十分でなく、コミュニティーに属していないとなると、支援者を見つけることは容易ではない。

 加害者が米国人であった場合、まわりには家族や友人がおり、地域や会社といったコミュニティーに属している。加害者の方が周囲に信頼されることが多く、被害を打ち明けたとしても、信じてもらえず、被害者が逆に「あなたに問題があるのでは」と責められるという。被害者もまた「自分に問題があるのではと、自らを責めてしまう」とゆきえさんは指摘する。

サポート不足

 周囲の問題意識が希薄なこともまた、解決への道を険しいものにしている。ワ州で現在、日系人の相談に対応している日本人DVアドボケイトは「おそらく、私一人しかいない」とゆきえさん。日系人DV被害者のみを対象とした支援機関は存在せず、日系社会内でDV被害者を支援しようという動きは活発とはいえない。