新興国への投資というと儲かるというイメージを持つ人が多いかもしれない。しかし、経済がドンドン伸びているんだから、そこの企業に投資すれば、誰でも儲かるだろう、という考え方には大きな誤解がある。新興国へのファンド投資というのは、それほど容易なものではない。

 ファンドというと堅苦しく感じる方もいると思うが、今回はベトナムを含む新興国の状況を、ファンド投資という視点から概観してみたい。

 私の勤務するDI(ドリームインキュベータ)は、DIアジア産業ファンドという50億円のファンドをベトナムで運用している(設立は2010年)。

 これまで、3つの現地企業に投資をしている。粉ミルクメーカー(ヌティフード)、医療機器の卸(Japan Viet Medical Instruments)、医薬品の卸兼薬局チェーン(Santedo)の3社だ。それぞれ、各業界の大手企業である。

 これらの会社の株式に投資し、経営をサポートしつつ、将来的に投資時よりも高い株価で売却する。これが、いわゆるPE(プライベートエクイティ)ファンドの基本的な仕事である。

 実は、ベトナムの場合、過去5年前後以内に現地企業向けに投資をしてきたファンドで、プラスのリターンを上げられそうなファンドは、全体の1割にも満たないと言われている。意外に思われるかもしれないが、殆どのファンドが儲かっていない(我々のファンドは、今のところ相対的には順調)。

リーマンショック前後のファンドは苦戦

 6年前の2007年当時、ベトナム経済は、バブルの絶頂にあった。

 典型的な例は不動産。ホーチミン市内の高層マンションを建設前に売りに出すと、徹夜組を含めて、マンションの販売オフィスの前には長蛇の列ができる。朝8時の販売開始と同時に、あっという間に売り切れ。

 そして、運良く部屋を購入できた人は、列の後ろに並んでいる人に、その部屋(を買う権利)を速攻で売る。その時点で、なんと、既に10%値上がりしているという異常な状況だった。

マンション購入のため札束を掲げて列に並んでいた人(写真提供:筆者、以下同)

 このマンション、決して価格は安くない。100m2で3000万~5000万円ぐらいする。つまり、後ろの列の人に売った人は、列に早く並んだというだけで、300万~500万円も儲かる。

 「俺はキャッシュで買えるぞ」とアピールするために、ドルの札束を見せつつ、列に並んでいる人もいると言われている(当時、実際に列に並んでいたDIベトナムのシニアスタッフ2人からの証言)。