11月23日の中国による東シナ海上空における「防空識別圏」(ADIZ)の設定宣言は、中国による尖閣諸島「強奪」のための新たなアプローチであり、東シナ海上空の「制空権」確保の意欲を露骨に示すものと受け止めることができる。
こうした動きは、わが国にとって到底受け入れることはできない。わが国の防空識別圏と重複する形での空域の設定は、わが国に対し「ケンカを売ってきた」以外の何物でもないからだ。
同時に、わが国の防空識別圏は第2次大戦後の1945年、GHQが設定したものをそのまま引き継いでおり、中国の設定した防空識別圏が米空軍の沖縄北部訓練区域とも一部重複していることから、戦後の米国によって形成された秩序への挑戦という意味合いもある。
しかし、このような状況が出現することは、本来なら予想されていなければならなかったのだろう。これを中国の仕掛けた「サプライズ」だとすることは、中国がそのために周到に進めてきた「手はず」を認識できていなかった証左になる。
尖閣上空へいち早く駆けつけるために空軍基地を建設
防空識別圏を設定することは、実は容易なことではない。設定したからには、その空域を常に監視し、国籍不明機の接近があれば戦闘機によるスクランブル(緊急発進)をかける。こうした態勢が整っていなければ、防空識別圏の意味がないばかりか、周辺の国にバカにされるだけだ。中国は、東シナ海上空に設定した防空識別圏において、十分な早期警戒能力、スクランブル態勢を用意した上で宣言したと考えるべきだろう。
ただし、現在までの時点で報道されたことに照らしてみると、中国は自ら設定した防空識別圏をしっかり管理しているようには見えない。米軍のB-52爆撃機、海自のP-3C哨戒機など、中国の宣言以後に同空域を飛行した航空機に対するスクランブル実施の形跡が見られないからだ。
現状では、おそらく中国は地上配置の対空レーダーと早期警戒管制機(AWACS)による航空識別を予定していたのだろうが、AWACSが常時運行状態になければ地上の対空レーダーでカバーしうる範囲は限られている。中国は、米軍のXバンドレーダーや日本の空自が運用している「ガメラ」レーダー(J/FPS-5)のような長距離をカバーする高性能な警戒管制レーダーを持っていないこともあり、せっかく設定した防空識別圏が機能不全の状態にあると考えられる。
このことは、西側の常識に照らせば、中国軍部にとって恥ずべき事態なのかもしれないが、その事実を認めるはずもないから、この恥ずべき事態も顕在化を免れていると言える。