小泉純一郎元首相の「原発ゼロ」発言が話題を呼んでいる。彼はかなり前からこういう発言をしていたが、「脱原発」や「卒原発」を唱えた政治家が選挙で軒並み落選して敗色濃厚のところへ、最後の救いの神として現れた格好だ。小沢一郎氏や社民党まで、小泉氏に秋波を送っている。

 小泉氏の話の内容は目新しいものではないが、彼らしく政治的な思惑なしに率直に語っている。おそらく一般国民の認識もこの程度だろう。その意味で、彼の発言はエネルギー政策についての初心者向け練習問題として面白い。

 YouTubeの動画「小泉元首相が原発について語る/神奈川新聞(カナロコ)」をもとに、これを事実に照らして検証してみよう。

原発の変動費は火力より圧倒的に安い

 小泉氏は「2年前の大震災の前は、原子力の知識はそんなにありませんでした」と認めた上で、震災後にいろいろな専門家の話を聞いたり、本を読んだりして勉強した結論として、こう言う。

 「おかしいんじゃないのか。コストが安いか? あの原発の立地、建設するためにどれだけの税金を投入したのか。住民から了解を得るために、どれだけの税金をその地域の住民に与えていたのか」

 

  「そういうことを考えているとね、安全でもないし、コストも一番安いなんて言うのは、違うんじゃないか。今ではもう、原発は安全でもない、コストは他のエネルギーよりももっとかかるというのが分かるようになりました」

 

 そうだろうか。電力会社も民間企業である。そんなに高くつく発電所を、なぜ政治的なリスクを冒して建設したのだろうか。初期には「国策」で無理に建設させられた面もあるが、今は電力会社も原子力が圧倒的に安いと考えている。

 これを数字で見てみよう。いま日本には新規の原発建設計画はないので、立地コストを考えても意味がない。こういう固定費は、運転してもしなくてもかかる。問題は既存の原発を運転することによって生じる変動費である。

発電コスト(円/kWh)出所:エネルギー・環境会議 コスト等検証委員会

 政府のコスト検証委員会の参考資料を読めば分かるように、原発の燃料費は1~2円/kWhで、運転維持費3円を加えても変動費は4~5円/kWh程度だ。これに対してLNG火力でも変動費は9円/kWh、石油火力に至っては19円/kWhである。