この10月下旬、北海艦隊、東海艦隊、南海艦隊の3つからなる中国人民解放軍海軍は、3艦隊合同で第1列島線を越えて、西太平洋でコードネーム「機動5号」と呼ばれる大規模な合同演習を行った。西太平洋でこうした合同演習が行われるのは初めてのことである。
ほぼ同時期の10月25~27日にかけては、中国の戦略爆撃機H-6と早期警戒機のY-8の合計4機が沖縄本島と宮古島の間を越えて、西太平洋に向かって飛行しているのが航空自衛隊に確認された。さらには、10月28日には、中国海軍はその原子力潜水艦部隊の活動を初めてメディアに公開し、その勢力を誇示している。
わずか過去1年程の間に、中国海軍は、宮古海峡であれ、バシー海峡であれ、第1列島線を恒常的に通過し、西太平洋に向けた行動を常態化してきた。
こうした中国海軍の動きについて、人民解放軍に属する中国軍事科学院研究員の杜文龍大佐によれば、「人民解放軍海軍の3艦隊に関する限り、第1列島線は今や寸断されている」として、「中国海軍が第1列島線を分断してしまったのだから、第1列島線は存在しないのも同然だ。」とコメントしている(10月23日付中国軍網)。
果たして、私たちは、こうした中国による急速な海洋進出を、この1年で十二分に理解してきたのだろうか。
100年前、英国がドイツに感じた脅威
この観点で、米国ロードアイランド州にある海軍大学校の海軍史の専門家であるトシ・ヨシハラとジェームズ・ホームズは、中国海軍が、「シーパワー(海上力)」で有名なアルフレッド・マハンを長年研究してきており、「マハニズム(マハン主義)」が、21世紀になってアジアに改めて登場しつつあることを指摘していることは興味深い。
(注) 中国によるマハン主義については次に詳しい。“Red Star Over the Pacific”, Toshi Yoshihara and James R. Holmes
東シナ海や南シナ海で中国が引き起こしている様々な問題を理解する上で、世界の海軍史こそ、改めて学ぶべきものであろう。中でも、最も参考になる歴史を問われたならば、おそらく100年前の英国・ドイツ間の海洋をめぐる対立こそ最初に挙げられるべきではないか。
なぜなら、19世紀後半、欧州大陸の新興大国のドイツ帝国が、マハンの海軍戦略を好んで読んだウィルヘルム2世の意を受けて、ティルピッツ海軍大臣の下で進められた急速な建艦政策こそが、英国を警戒させしめ、毅然たる対応を促したからである。
ドイツ帝国は世界的な帝国となるため、19世紀後半から、国力に応じた大洋艦隊(Hochseeflotte)が必要と考え、1900年の第2次海軍法において、それまでの19隻から38隻に艦船を倍増させることを決定し、実際に大洋艦隊への道を歩みだすのである。