本年4月末に行われた、安倍晋三総理のロシア訪問は「約120名という日露関係史上最強・最大の経済ミッションが同行」(首相官邸ホームページ)したためだろうか、昨今の日本とロシアの経済関係は、急速に熱を帯びつつあるように思われる。

 ほぼ連日のように、日本企業がロシアへの進出を決めたとか、従来の業容を拡大する見込みである旨が、新聞紙上を賑わしているようだ。

 そんななか、我が国の企業、とりわけ製造業にとってロシア市場でのビジネスの可能性は具体的にどのようなものであるかを探りに、本年8月末から9月初にかけて現地に調査旅行に出かけた。本記事では今回の調査から得られた見解の一端をご報告したいと思う。

たった1社が町の命運を握る

サマラ州トリヤッチ市

 今回の第1の目的は、ロシア南部サマラ州トリヤッチ市にある自動車企業アフトバズ社を訪れることであった。

 現在、同社にはルノー=日産自動車連合の資本が入っており、昨年より日産出身で筆者の旧知の保坂不二夫氏が社長顧問として再建に携わっているからだ。

 トリヤッチ市はボルガ河畔に位置する自然豊かな人口約70万人の町で、アフトバズ社を核とする典型的なモノシティー(単一企業都市)である。

 地元市庁舎の情報によれば、同市の工業生産の約7割が自動車であって、その他世界最大のアンモニア工場とも言われるトリヤッチ・アゾトという化学工場が存在するが、この2社の他に目立った産業はない。

 ソ連時代は社会主義計画経済体制の名の下で、安全保障などの観点から広大な国土の様々な地域に、経済合理性からは乖離した生産配置が行われた結果である。

 社会主義時代、運輸コストはほぼ無料と見なされたから、ロジスティクスに関わるコストは全く考慮されておらず、だからこそ企業立地が国中に分散的に行われたわけだが、体制移行後はその遺産が重くのしかかっているというのが現状である。

 そもそもルノー=日産連合がアフトバズ社に参加している経緯は、2008年の世界的金融危機の煽りを受けて苦境に陥った同社の救済をウラジーミル・プーチン首相(当時)から直々に依頼されたカルロス・ゴーン社長がこれを受け入れたことから始まる。