米国の対シリア政策が迷走している。この3週間、シリアでの化学兵器使用を巡り国際社会は揺れに揺れた。内外メディアはバラク・オバマの右往左往とロシアの強かさにばかり注目するが、なぜかこの化学兵器騒動と中国の態度に焦点を当てた解説は見当たらない。今回は天邪鬼の筆者がこの点を分析する。(文中敬称略)

初動段階

戦争に疲れた米国、同時多発テロから12年を迎える

同時多発テロから12年目となった9月11日、ホワイトハウスで黙祷するオバマ大統領〔AFPBB News

 ダマスカス郊外で一般市民に対しサリン系化学兵器が使用されたのは8月21日。それ以降、オバマ政権の対応が、文字通り、二転三転したことは既に報じられているとおりだ。

 ここでは重複を避け、8月21日以降の中国政府の重要公式発表、人民日報関連分析報道などを時系列順に振り返ってみよう。

8月23日 シリアでの何人による化学兵器使用にも断固反対する(外交部報道官)
8月26日 国連事務局による化学兵器使用に関する調査を支持する(外交部長)

 この時点での中国側反応は控えめだ。ちなみに、8月22日の日本の外務報道官談話も、「化学兵器の使用はいかなる場合でも許されるものではなく、我が国は、すべての暴力のすみやかな停止に向け、引き続き国際社会と連携して外交努力を重ねる考えです」と述べていた。問題はその後である。

米国の強硬姿勢

 状況は8月27日あたりから変化し始めた。それまで慎重だったオバマ政権が軍事攻撃に傾き始めたからだ。8月28日、米国の報道官が、「具体的な軍事行動の内容や開始時期はオバマ大統領が検討中」と述べたこともあり、攻撃の可能性は急速に高まった。これに応じ、中国側の発言も微妙に変化していく。

8月28日 すべての関係者に対しシリア危機について冷静さと自制を呼びかける、いかなる国も化学兵器使用に関する調査に介入したり、その結果を予断すべきではない(外交部報道官)
8月29日 米国の対シリア攻撃は逆効果となる(人民日報ワシントン発分析記事)
8月29日 米国は対シリア攻撃を正当化できない(人民日報評論)
8月30日 先週まで慎重だったオバマが今週強硬姿勢を強めたことは驚きだが、その背景には米国の中東政策の行き詰まり、ロシアとの関係悪化、仏の強硬姿勢などが考えられる(新華社ネット評論記事)

 中国側はこの頃から米国が軍事介入を本気で検討し始めたことに気づき、これに強く反対し始める。8月29日以降、すべての発言、公式記事は対シリア攻撃を強く牽制する内容だ。ちなみに、29日の分析記事はワシントンの米国人記者(Matthew Rusling)に書かせている。相変わらず、中国側は芸が細かい。