十数年前、東京で、日本を訪れていたドイツ人作家のインタビューの通訳をした時、アマゾンが取材に来ることになった。
初めて聞いた名前だったので、「アマゾンって何ですか?」と担当の編集者に訊いたら、「アメリカの会社で、インターネットで本を販売している。これから日本でも伸びると思う」という答えだった。確かにその通りで、今やアマゾンの勢いは凄い。
アマゾンが外国人派遣労働者の扱いで激しく非難される
そのアマゾン・ドット・コムが、ドイツで激しい非難に晒されたのが、今年の2月。ドイツの公共テレビARD(ドイツ公共放送連盟)傘下のヘッセン放送が、アマゾンの外国人の派遣労働者の実態をルポしたのだ。
そのビデオが、その後インターネットで十何万回も再生され、波紋はどんどん広がり、ついに「奴隷労働」などという声まで上がった。アマゾンもインターネットのおかげで伸びたが、こうしてみると、今や、インターネット自体が世論に及ぼす影響力は絶大なものだ。
ルポは30分番組で、若い男女のジャーナリストが作った。映像がずれたり、揺れたりしているところも多く、こっそり忍び込んで撮っている様子が想像できる。
アマゾンは昨年、クリスマス需要のために、主にスペインとポーランドから、多数の短期労働者を雇い入れた。彼らは国を発つ直前、「アマゾンが直接契約を交わすことはできなくなった。中間の派遣業者を介しての契約となる。契約条件はほとんど変わらない」という通知を受けたという。
ただ、ドイツへ来てみたら、労働条件はほとんど同じどころか、かなり悪くなっていた。とはいえ、すべてはドイツ語だし、どうしようもないのは分かりきっているので、全員、そのまま契約のサインをしたという。
宿舎として提供されたのは、冬なので使っていないリゾート施設。リゾートというと聞こえはよいが、さびれた合宿所のような感じだ。周りには何もなく、葉っぱの落ちた森に雪が積もり、寒々しい。そこに、1部屋当たり5人ぐらいで詰め込まれた。
仕事は、商品の仕分けや梱包など単純作業で、1日8時間。職場まではバスで45分かかるが、そのバスが普通の路線バスで、時間通りに来ない。
深夜の交代は夜中の12時で、バスは夜勤の人で大混雑。なお、バスの遅れで遅刻した場合は、賃金から差し引かれるという。職場に通う交通手段がほかにないのに、ずいぶん理不尽なことだ。
ルポの中では、スペインから来た中年の女性に焦点が当てられていた。夫と子供のために少しでもお金を稼ぐために来たという。スペインは財政破綻しており、2012年は失業率が25%を超えた。特に若者(18歳から24歳)の失業率は50%という。