つい先日、モスクワからサンクトペテルブルクを経由し、フィンランドのヘルシンキまで鉄道の旅を敢行した。モスクワ~サンクト間はソ連時代から有名な「赤い矢」号。この1等寝台を利用したが、最新の車両はトゥベル車両工場製で、豪華そのもの。

 乗車後の夜食に下車前の朝食と2回も食事ができる。1等寝台は2人部屋で、1両に8室、16人が定員だ。1人当たりの乗車券は7700ルーブル、日本円で2万3000円もする。

列車の旅は飛行機の2倍の金額

モスクワを出発する直前のサンクトペテルブルク行き「赤い矢」号。この列車は、ソ連時代からずっと毎晩23時55分にモスクワとサンクトを 出発し、翌朝8時に目的地に到着する。レニングラード回廊を行く名物列車である

 ロシアの物価からみても、相当高額な料金だ。ちなみに、アエロフロート国内線のモスクワ~サンクト料金は往復で2万5000円程度だから、1等寝台を例に取ると、今や鉄道の旅は空路の2倍、ということになる。

 ロシア鉄道は国が100%出資しているので、日本の旧国鉄を考えていただければよい。すなわち、ロシア国内のほぼ100%の路線を押さえている国有企業ということだ。

 営業キロ数8万5000キロ、従業員数107万人、旅客輸送実績(2008年)12億9600万人、という巨大な国有企業である。そして、そのロシア鉄道に生産量のほぼ全量を納めている車両製造企業がトゥベル車両工場。

 この親会社はトランスマシホールディングと称する持ち株会社だが、その資本の半分をロシア鉄道が握っているのは理解できるとしても、出資者に西側企業が顔を出しているのには驚いた。

 オランダのブレーカーズ・インベストメント(Breakers Investment)、さらにはフランスのアルストム・トランスポート(Alstom Transport)が株主だ。

 数年前、筆者がこの工場を訪問した理由の1つは、日本製工作機械の納入可能性を打診することであったが、工場を視察するだけで答えは出る。ドイツ、フランスを中心とするヨーロッパ製の設備で工場は埋まっていたのである。

 このような西側の設備を輸入する際も、西側資本が一部でも入っているとEBRD(欧州復興開発銀行)などの融資が受けやすくなり、大変都合がよい。

 そのような動きを欧州企業は2000年前後から猛烈な勢いでロシア企業に対して繰り返してきたが、今、その成果が立派に出始めていることを高速で移動する豪華な寝台車の中で認めざるを得なかった。