日本の中堅企業は、全体として安定した経営基盤を築いているようだ。しかし、全ての企業が成功を収めているわけではなく、過去数年特に目覚ましい業績を上げた企業も存在する。本章では“優良中堅企業”を特定し、その成功の一端を担う経営体制や戦略について検証を行う。

 本報告書で用いる“優良中堅企業”の定義は、日本経済が様々な困難に直面した2010~12年にかけて、3年連続で世界的な増益を達成した企業だ。この条件に当てはまる企業は、中堅企業全体の17.6%とそれほど多くない。

 業種別でこうした企業が一番多いのは、景気サイクルの影響を比較的受けにくいヘルスケア・製薬・バイオテクノロジー業界だ。同セクターでは、3分の1以上の企業がこの条件を満たした(表5.1参照)。

 一方で、市場変動の影響をより受けやすい金融・専門的サービスやIT・テクノロジー・電気通信といった業界でも、それぞれ5分の1以上が“優良中堅企業”となっている。条件を満たす企業が最も少なかったのは製造業だ。

 この分析結果で興味深いのは、事業規模あるいは創業年数別に見た“優良中堅企業”の分布状況があまり変わらない点だ。言い換えれば、特定の事業規模や創業年数が、成功に有利な条件となっている可能性は低い。過去数年の厳しい経済環境の中で成長を実現した企業と、そうでない企業を分けたのは、むしろ経営体制や戦略といった要因だ。

柔軟性と多様な製品・サービス展開

 ある意味当然のことだが、優良中堅企業には明確な成長戦略を持つ企業が多く見られた。3年連続増益という条件を満たす企業の71%が、「明確な成長戦略を持っている」と回答する一方で、その他の企業では同様の回答が32%にとどまっている。

 また優良中堅企業は、より柔軟な事業体制を構築しているようだ。「市場変化を捉えるポジションを確保している」とした回答者の割合が、こうした企業では3分の2に上っている(その他企業では3分の1)。

 優良中堅企業が優れた柔軟性を備えている理由の1つは、多様な製品・サービスを展開していることだ。中堅企業には、ニッチ市場でビジネスを展開する企業が多く見られる。しかし優良企業の52%は「幅広い商品ラインアップを揃えている」と回答している(その他企業では31%)。

 もう1つの重要な点は、こうした企業が顧客ニーズの変化をよく理解していることだ。「顧客ニーズを理解するためマーケットリサーチを行っている」という記述に同意した優良中堅企業の割合が47%に上ったのに対し、その他企業ではこの割合が22%にとどまった。

 また興味深いことに、優良中堅企業はサプライチェーンのパートナー企業とより良好な関係を保っている(「サプライチェーン・パートナーとの関係は良好だ」とした回答者は、優良中堅企業の59%に対しその他企業では30%)。この結果は、自動車やその他の製造業でよく見られる“系列”の重要性を示しているのかもしれない。

 たしかに系列は、安定的な取引関係の実現というメリットを持つ仕組みだ。しかし事業環境が悪化した際には、顧客との取引条件の交渉をやりにくくしてしまうというマイナス面も見られる。優良中堅企業で「原価の上昇を顧客に転嫁できない」とした回答者は53%と、その他企業の44%を上回った。