英国からスウェーデンに移り、落ち着いてしばらくした頃、「リリア 4-ever」という映画が製作・公開され、国中に一大センセーションを巻き起こした。2002年のことだ。
ソ連崩壊後、連邦から独立した一共和国でストーリーは始まる。混乱を極め、貧困化する社会の中で、母親は16歳の少女を残し、新しい生活を求めて男と米国へ行ってしまう。後で呼び寄せると母親は言ったが、その後少女には何の連絡もない。養育権なども放棄されており、少女は捨てられたことを悟る。
母が置いていったカネもなくなり、すさんでいく生活の中で、少女は優しい男と出会う。彼に「スウェーデンには仕事がある」と言われて一緒に行く約束をする。偽造パスポートを手渡され、チケットの手配もするが、しかし男は「先に行っててくれ」と言い、飛行機には乗らない。
到着した空港で彼女を待っていた別の男が、彼女を自分の部屋に連れて行く。セックスを強要され、その後ドアに鍵をかけられて監禁される。
それから彼女は毎夜、いろいろな男の部屋へ連れて行かれて売春させられるのだ。暴力を振るわれ、「逃げたら殺す」「警察に行っても、もとの国に帰されるだけだ。その後、俺の仲間がお前を殺す」と脅されながら。
スウェーデンを震撼させたリトアニア少女の過酷な運命
この映画は実話に基づいている*1。
1999年9月、リトアニアに住む16歳の少女ダングールが、「スウェーデンに行けばベリー摘みの仕事がある」と言われて南スウェーデンにやって来た。ほぼ上記のような経緯をたどり、毎夜売春を強要されるという生活を強いられた。彼女は窓から飛び降りて逃げたのだが、今度はマケドニア人の男らに捕まり、そこでも毎晩何人もにレイプされた。
そこから逃れたダングールは、2000年1月、マルメ市内の橋から飛び降りて自殺した。私は当時、その橋から400メートルほどのところに住んでいた。もちろん当時は、自分の身近でそんなことが起きているとは全く気がつかなかった。多くのスウェーデン人にも多大なショックを与えたはずだ。
シルビア女王がスピーチの中で彼女に言及し、その死を悼んだこともある。
日本では数世紀以前、貧困にある農家の娘が、身売りの仲介をする女衒を通して遊郭や女郎屋に売られたという。しかし真実を知らされず、「仕事がある」などと女性をだまして連れて来、暴力や脅迫によって性交を強要するとは、現代の女衒の方がはるかに悪質ではないか。
*1=http://wwwc.aftonbladet.se/nyheter/0003/23/balt.html, http://www.aftonbladet.se/wendela/article90756.ab, http://sv.wikipedia.org/wiki/Danguol?_Rasalait?