自民党の高市早苗政調会長の「福島第一原発で事故が起きたが、それによって死亡者が出ている状況ではない。最大限の安全性を確保しながら活用するしかない」という発言に、マスコミや野党が一斉に反発し、高市氏は発言を撤回して謝罪した。

 これは「原発事故による死亡者」の定義の問題であり、それほど重大な失言とは思われない。それも神戸市で行なわれた講演を朝日新聞が「スクープ」する形で大騒ぎになったのは、原発の再稼働申請を阻止しようとする朝日をはじめとする反原発派との情報戦の始まりだろう。

放射線の被曝による健康被害はゼロ

 もちろん避難による2次災害を含めれば、高市氏の発言は誤りである。震災関連死と認定された死者は今年3月現在で2688名、その半分の1388名が福島県で出ていることから考えると、間接的に原発事故が原因になった病気・事故などの死者は700人程度と見られる。

 しかし「事故で環境中に放出された放射性物質の被曝による死者」という意味では、彼女の発言は正しい。WHO(世界保健機関)の報告書でも、「日本内外の一般住民への予測されるリスクは低く、識別できる自然発症率以上の発がん率の増加は予想されない」と結論した。

 国連科学委員会も「福島第一原発事故の放射線被曝は、即座の健康被害を引き起こさなかった。そして将来にわたって一般市民、原発事故作業員の大半の健康に影響をおよぼす可能性はほとんどないだろう」という結論を出している。

 この他にも多くの研究者が福島事故の健康被害を現地調査したが、現在の最も厳格な放射線基準を適用しても、福島で癌による死者が増えることはあり得ない、というのが山下俊一氏(長崎大)、中川恵一氏(東大)、高田純氏(札幌医科大)など放射線医学の専門家の一致した意見である。