パリはちょうど山手線の内側くらい、とはよく使われる表現だが、その東と西には、都市に酸素を送る肺のように、広大な2つの森がひかえている。

パリの心肺機能、ブーローニュの森

 森とは言っても、自然のままの森というのとはちょっと違っていて、むしろ巨大な公園と言う方が実際のイメージに近いだろう。ブーローニュの森はその2つの肺のうちの1つ。市の西に位置し、総面積は846ヘクタールという規模を誇る。

ブーローニュの森の中にあるバガテル庭園の入り口

 そこでは、ジョギングをしたり、サイクリングをしたり、また池でボート遊びをしたりと、市民の憩いの場であると同時に、テニスの全仏オープンが開かれるローランギャロスや、「凱旋門賞」で有名なロンシャン競馬場などの施設もあると聞けば、その大きさとバラエティの豊かさをご想像いただけるのではないかと思う。

 バガテル庭園もまた、ブーローニュの森の中の区画の1つ。発祥は1775年、かの有名な王妃マリー=アントワネットの時代までさかのぼる。

バガテル公園内にはクジャクが放し飼いにされていて、それを間近に眺めることもできる

 フランス庭園と言えば、ベルサイユ宮殿などに見られるように、空の上から定規やコンパスで描いたようなきっかりと幾何学的な区画が特徴的だが、ここはむしろ自然の森にならったような、英国風とシノワズリー(東洋趣味)のスタイルによって形作られている。

 樹齢100年以上の大木や芝生の丘、池あり、小さな滝もあり。それらを巡るようにくねくねとした道があちらこちらの方向に伸びているのだが、庭園の奥の院とも言える場所に、今回ご紹介するバラ園がある。

『ベルサイユのばら』にはそれなりの理由がある

バラ園の様子

 種類にして1000以上、1万本のバラが植えられており、また繰り返しになるが、さすがはマリー=アントワネットの国らしく、そのしつらえは優美そのもの。

 ここに来れば、『ベルサイユのばら』の世界はやはりこの国が舞台だからこそ成立する、と納得させられるような華麗さである。

 このバラ園が有名なのはもちろん美しさのためもあるが、実は、ここでは毎年バラの新品種国際コンクールが開かれており、それが1世紀以上の歴史を持つという国際的に見ても大変に権威のあるもので、この世界の人々にとってはまさに特別な場所になっているのである。

 最終審査が行われるのは毎年決まって6月の第3木曜日。103回目になる今年は、17日がその日に当たっていた。エントリーされた品種は83種で、11カ国、20の育種家によって生み出されたもの。それらは既に2年前に園内に植えられ、同じ条件の下で育成されてきた。