今年の7月から、またEUの加盟国が増えるらしい。28番目の加入国の名はクロアチア。旧ユーゴスラビアの一角だ。

 アドリア海を挟んで、イタリアと向かい合うように伸びる国で、海岸線が長く、それに沿って1246個の島が散らばっている。風光明媚で、物価が安いので、観光客が多く、GDPの5分の1を観光に依存している。

ドイツでヤミ労働に従事する、次のEU加盟国クロアチアの人々

 クロアチアのEU参加に向けての交渉は、2005年から始まっていた。目標は2013年6月。EUに加盟希望の国は、定められたEUのスタンダードを満たすことが必要で、半年ごとにその改革の進捗具合を報告し、EUの加盟国拡大委員会の審査を受ける。

 去年の11月の段階では、クロアチアはまだ問題が多いということで、早急な改善が求められていた。最大の懸念は、蔓延している汚職と、司法の混乱。司法制度は一応改革されたものの、依然として満足に機能せず、裁判の遅延が絶望的で、汚職もその他の犯罪も効果的に裁かれる見込みがないらしい。

キプロス支援合意、大手銀の整理と大口預金者への負担が条件

欧州連合(EU)の旗に「ノー」と書きつけて抗議するキプロス市民〔AFPBB News

 ところが3月26日、2013年7月からのクロアチアのEU加盟が正式に発表された。ドイツ人の反応は、「なぜ、今?」というものだ。

 その前日まで、キプロス問題が嵐のように吹き荒れ、ようやく深夜の審議で、その救済問題に幕が引かれた矢先だった。しかも、幕が引かれたと言っても、別にめでたいわけではない。ドイツ人のEUに対する不信は、これまでで最高のところまで膨張している。

 なのに、よりによってその翌日にクロアチアの加盟。「キプロス問題で悪いニュースばかり聞かされていたEU市民に、良いニュースを届けたかった」という説明に腹を立てた人は多かったと思う。「クロアチアのEU加盟が、なぜ良いニュースなのだ!?」と。

 クロアチア人は、すでにドイツにたくさん入っている。私の知っている限りでも、周りにたくさんいる。ドイツとクロアチアの主要な都市の間には、網の目のように長距離バス網ができていて、定期バスが始終往復している。EU国境ではパスポート検査があるが、入国に何の問題もないそうだ。

 ドイツにいるクロアチア人の多くは、不法労働者だ。3カ月の観光ビザで入ってきては、ドイツでお金を稼ぎ、いったん国に帰り、また観光ビザで入るということを繰り返す。