インターネット版「Le Figaro」を何気なく眺めていて、気になるタイトルに出くわした。“Silk me back:quand le Kimono tisse des liens”(シルク・ミー・バック:キモノが絆を織りなすとき)。

 タイトルのすぐ下には、衣桁に掛けた白い着物(のようなもの)の写真が添えてある。

 そして、「現代のアーティストたちによって制作された27枚の日本風チュニックが、東北の震災被災地の復興資金を目的として、2月9日にオークションにかけられる」という一文から、記事は始まっていた。

東日本大震災復興資金のための“キモノ”オークションがパリで開催

 わたしがこの記事に遭遇したのはまさにその当日のことだったが、会場は幸いにもパリ、しかもオークションの時刻は夕方とあり、少しばかりせき立てられるような気持ちで、記事の締めくくりにあった携帯電話番号にコンタクトを取った。

 すると、「ええ、ぜひいらしてください。開場の10分前くらいにおいでになれば、席は十分あると思います」と、感じのよい若い女性の声が応えてくれた。

 伝統的な競売にもネットオークションにもまだ無縁であるゆえ、勝手も分からず、この場でなにかを競り落とそうというつもりはない。けれども、とにかくいったいどんなことが繰り広げられるのか、それをじかに見てみたいと思っていた。

オークション会場の様子(著者撮影、以下同)

 夕方5時すぎ。目的のホテル(Hôtel The Westin Paris-Vendôme)に到着。ここはルーブル美術館からも歩いてすぐの、まさにパリの一等地にある高級ホテル。

 入り口には、日の丸をイメージさせるデザインに「Silk me back 慈善競売―コンテンポラリーアートのキモノ27点」と書かれたA4サイズの案内板があり、「コンコルドの間」がその会場であることを知らせている。

 幾人かの先客たちとともに、ほどなく恭しく開かれた扉の内側へ。するとそこには、毛足の長いじゅうたんの上、緋色のビロードと金の細工のある椅子が整然と並べられ、時を待っていた。