円安・株高が急ピッチで進んでいる。特に平均株価はバブル経済絶頂期の1989年以来の9週連続の上昇で、株式市場は「アベノミクス景気」に沸いているが、この相場は普通の経済理論では説明できない。
2012年11月のコラムでも指摘した通り、金利がゼロに張りついている現状では日銀が物価を上昇させる手段はない。財政支出の効果が乏しいことも、前の自民党政権末期に証明済みだ。ではなぜ為替と株が大きく動いているのだろうか?
安倍首相は奇蹟を起こしたのか
これについてプリンストン大学教授のポール・クルーグマンが興味深い考察をしている。安倍晋三首相は無知なので他の国の首脳のようにインフレ政策のリスクを心配せず、結果的に大胆な政策が取れるというのだ。
安倍晋三は、驚くべきケインズ的な政策で日本を浮揚させた。彼の政策[公共事業や日銀に対する圧力]は古い自民党の地元利益を追求する汚い目的で行われたものかもしれないが、それは問題ではない。[中略]インフレ予想を起こすことによって、安倍は劇的な変化をもたらしたのだ
彼は15年前に「日銀はインフレ予想によってデフレを解決できる」という論文を書いたのだが、それは実現しなかった。日銀は量的緩和で世界最大級の通貨供給を行ったにもかかわらず、デフレが続いてきた。
アメリカでも同じ現象が起こり、FRB(連邦準備制度理事会)がバランスシートを3倍にふくらませたのに、景気回復もインフレも起こらなかった。このためクルーグマンは、最近はもっぱら大規模な財政政策を主張している。
円高が続いた最大の原因は、デフレによって円の価値が相対的に上がったことだが、日銀がいくら追加緩和してもインフレにならないので円高も是正できなかった。ところが安倍氏は、わずか1カ月で日銀の見果てぬ夢だった円安とインフレを実現した。彼は奇蹟を起こしたのだろうか?