ツィナンダリ、サペラヴィ、キンズマラウリ、ムクザニ、フヴァンチュカラ。これらは旧ソ連で圧倒的なブランド力を誇ったグルジアワインの代表的なブランドである。

希少な赤ワインの産地として知られるラチャ地方はミネラルウォーターの名産地でもある。グルジアの高校生は夏、「水飲み比べ」に集まる

 グルジアと言えばワイン。ワインと言えばグルジア。独特の丸みを帯びたグルジア文字のラベルとともにその味を懐かしく思うモスクワ駐在経験のある方も少なくないだろう。

 ボルジョミと言えばこれもソ連を代表するミネラルウォーターであった。

 かつてロシア皇帝も訪れたグルジア中南部の著名保養地ボルジョミ地方の名産品である。こうしたグルジアのワインや炭酸水がロシアへの輸入を禁じられてからすでに6年が経過した。

 たかが水やお酒と言うなかれ。ロシアが禁輸する直前の2005年には約8000万ドルを稼ぎ出していた有力輸出産品なのである。ロシア市場を失った後、昨年ようやく禁輸前の3分の2程度(およそ5400万ドル)まで数字を戻した。

 そして、今年度の統計ではワイン・スピリッツ・ミネラルウォーターを合わせて実に総輸出の8.5%を占めている。ロシア市場を失ったことがいかに大きな痛手であったか容易に想像できる。

 しかも、グルジア政府の懸命の努力にかかわらず、今もグルジアワインの消費地はウクライナなど、旧ソ連頼みは変わらない。逆に言えば、今でも一定のブランド力を旧ソ連圏では維持していることになる。

グルジアの「象徴」

トビリシ空港のパスポートコントロールで配られたミニワイン

 日本では「ロシア通」にのみ長年愛でられ、残念ながら知名度に欠けるが、現在もグルジアは「ワインのふるさと」を自国の売り込み文句としている。

 筆者が11月にグルジアを訪れた際も空港で入国の際に(「日本はリストに入っているな」との確認の言葉とともに)ワインのミニボトルをプレゼントされた。

 そもそもユーラシアの隠れたグルメ国グルジアの料理は、ロシアでは最もポピュラーな「(ややこしいが「旧国内」)エスニック料理」の1つとして広く認められてきた。

 近年も、ロシアにおける日本料理ブームにもめげず、本連載執筆陣メンバーの菅原信夫氏の情報によれば、優良店も増加し、お忍びVIP専用レストランにいたるまでグルジアレストランはモスクワでますます大人気だという。

 また、ソ連崩壊後にはグルジア人の波というより旧ソ連諸国からの移民の波の中で、世界各地でグルジア料理屋を見つけることができた。

 ところが、分離独立派に対するミハイル・サーカシビリ政権の強権姿勢を嫌悪していたロシアは2006年に「品質」を理由にグルジアからの飲料水・アルコール類の輸入を全面的に禁止したのである。