今週は北京で発生した前代未聞の不祥事を取り上げたい。8月27日午後、日本の特命全権大使が乗車する公用車が、北京市内の公道上で何者かに襲撃され、車両前方に取り付けてあった日章旗を強奪された、あの情けないほどけしからん事件である。

大使車襲撃は強盗事件?

大使公用車襲撃、玄葉外相「日中で意思疎通を」

北京の日本大使館を出る公用車(大使の車両とは別)〔AFPBB News

 まずは事実関係を検証する。報道などを取りまとめれば、事件の顛末は概ね次の通りだが、これはどう考えても、単なる器物損壊や窃盗事件ではない。

 日本で発生すれば、「暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取する」より悪質な強盗事件とされるのではなかろうか。

●27日午後4時頃、北京市内の高速第4環状線を走行中の日本大使公用車が少なくとも2台の乗用車に強制停車させられ、降りてきた男が公用車の日章旗を奪って逃げた。

●同日、在北京日本大使館は中国外交部に厳重抗議し、再発防止を求めるとともに、2台の車両のナンバーと現場写真を提供しつつ、刑事事件として捜査するよう求めた。

●これに対し、中国外交部は「極めて遺憾」であり、「在留邦人・企業の安全も確保し、法に基づき厳正に対処する」とし、同日深夜には「関係部門が真剣に調査中」と発表した。

●28日、日本大使が談話を発表し、「事件発生は極めて遺憾」であり、「中国外務省から厳正な捜査の確約があった」「引き続き中国側に申し入れる」などと述べた。

 より詳細な事実関係は一連の報道を参照頂くこととし、ここでは筆者個人の経験に基づき、いくつか気になる点を挙げながら、それぞれ検証していこう。なお、以下のコメントはすべて報道された公開情報に基づくものであり、日中関係者からの聞き込みは行っていない。

極めて便利な「極めて遺憾」

 最初に、日中双方が使っている「極めて遺憾」の意味するところから解説しよう。「遺憾」とは本来「残念に思う気持ち」を指す。しかし、この「遺憾」なる語、直裁的な表現を好まない外交の世界では、様々な含意を持つ実に便利な言葉として重宝されている。

 一部の解説書などで、「遺憾の意」はハッキリものを言わない日本人らしい表現などと説明されているが、それは嘘。英語ではregret、中国語では遺憾(イーハン)、いずれも状況に応じて、「けしからん」とも、「ごめんなさい」とも取れる、世界共通の万能型曖昧語である。