家電メーカーの業績が急速に悪化している。パナソニックとソニーとシャープが発表した2012年3月期の業績見通しによれば、3社の赤字の合計は1兆6000億円を超える。常識的には経営破綻や企業買収・売却が起こっても不思議ではないが、今のところ出ているのは、台湾の鴻海精密工業がシャープの筆頭株主になったぐらいだ。
「引責辞任」したはずの3社の社長はそろって会長などに残留し、後継社長はその子飼いだ。これで思い切った経営の転換ができるとは思えない。
誰もが口をそろえて「選択と集中」を唱え、人員整理を発表しているが、問題は労働者ではなく経営者の整理である。
家電は今やコンピューター産業
メーカーの社員に「何でこんなひどいことになったのか?」と訊いてみると、答えはほとんど同じだ。「やるべきことは、社員はみんな知っている。経営者がやらないだけ」
特に赤字の最大の原因となっている液晶テレビは「日本で生産しても赤字が増えるだけ」と誰もが知っているが、切れない。それによって発生する大量の余剰人員の行き場がないからだ。
こうなることは、ある意味では予想できた。家電製品の主力である液晶テレビやスマートフォンなどのデジタル家電の中核部品は半導体であり、ムーアの法則と呼ばれる急速な技術進歩が起こっているからだ。これは「半導体の集積度は18カ月で2倍になる」という経験則である。
この法則は1960年代から現在まで続いており、現実に半導体の計算量あたりコストは10年で100分の1になっている。言い換えれば、いま生産に投入されている人的・物的資源の99%が10年後には過剰になるということだ。