巨額の受託資産を消失させた独立系運用会社のAIJ投資顧問。同社の杜撰(ずさん)な運用体制や監督当局の責任を巡る報道がかまびすしいが、本稿では別の角度から、今回の出来事の根本的な問題の構図を読み解く。

 資産運用業界の関係者に当たってみると、消失問題は同社固有の事象ではなく、日本の年金運用に横たわる構造的な“病根”の存在に行き当たる。

 その病根には「素人運用」、そして「運用利回り主義」という2つのキーワードが横たわっている。

素人の「三位一体」運用が悲劇を招いた

 「リーマン・ショック、ギリシャ危機などに一切影響されることなく、高リターンを叩き出す術はある。アイバさんでも十分に運用は可能だ」・・・。

 ある大手運用会社のファンドマネジャーにこんな言葉を投げかけられ、筆者は身構えた。筆者は通信社勤務時代に長らく市況担当の記者を務めたが、実際にFXや株式投資を手がけた経験はゼロ。多少、世界経済の動向や主要国の金融当局者の動静を知っているのみで、運用実務に関しては全く知識がない。こんな素人にでもハイリターンを叩き出すことができるのか。

 前編でも記したが、答えはAIJが得意としてきた「プットの売り」にある(詳しい説明は前編を参照していただきたい)。

 デリバティブのオプション取引の中でプットの売りを繰り返すことで、「市況の乱高下に左右されることなく、(受け取った)プレミアム(手数料)を配当に回し続ければ、小学生でも10%のリターンは可能」(先のマネジャー)ということになる。

 ただし、このハイリターンの背後にとんでもないハイリスクが潜んでいるのは言うまでもない。前編で記した通り、株式や債券などの資産運用の世界で、市況に左右されず連戦連勝の成績を残すことなど不可能だ。

 AIJが他の大手運用会社を尻目に勝ち続け、そして顧客の資産を呼び込んだ理屈は、プットの売りを続け、プレミアムを受け取り、これをひたすら「偽りの運用成績」としてきた、というのが基本的な構図なのだ。