原口一博総務相は、全世帯にブロードバンドのインフラを普及させようという「光の道」構想を唱えている。4月20日、それについて通信各社のトップの意見を聞くヒアリングが総務省で行われた。

 その席で、ソフトバンクの孫正義社長が発表した「アクセス回線会社」構想は、多くの人々を驚かせた。

 これは政府がNTTのアクセス回線(家庭から電柱まで)を「構造分離」して別会社とし、他社がその「アクセス回線会社」に接続して全世帯のアクセス系を光ファイバーに取り替えるというものだ。

 この構想に対しては、NTTだけでなく電力系の通信業者も「自前で設備投資をしないで、NTTのインフラにただ乗りしようとする虫のいい話だ」と批判している。ユーザーも「全世帯の9割が利用可能な光ファイバーが3割しか使われていない現状で、インフラだけ整備しても無駄」と冷ややかで、ソフトバンクの構想が実現する見通しはない。

米国は無線ブロードバンドに重点

 他方、時を同じくして米国でもFCC(連邦通信委員会)が全米ブロードバンド計画を発表し、「少なくとも1億世帯が100メガビット/秒でダウンロードできる」といった数値目標を掲げた。

 中でも電波については、「今後10年で500メガヘルツ、5年間で300メガヘルツの周波数帯域を新たに開放する」とし、テレビの使っている周波数帯域を120メガヘルツ減らす方針だ。

 この背景には、インターネットの祖国である米国がブロードバンドで後れを取っているという問題意識がある。

 FCCは1996年に電気通信法でインフラの開放を地域電話会社に義務づける規制を行ったが、電話会社はこれに抵抗して訴訟を起こした。最終的にFCCが連邦最高裁で敗訴して、回線開放は不可能になった。このためDSL(デジタル加入者線)などの新しい通信事業者は全滅。米国でブロードバンドの整備は進んでいない。

 他方、無線については、米国は90年代から周波数オークションを導入し、新規参入によって携帯電話産業を活性化した。

 欧州はそれに追随して2000年にオークションを実施したが、ITバブルの崩壊で通信事業者が大きな打撃を受けた。日本はそれを見てオークションをためらい、「美人投票」で電波を割り当てたため携帯電話の競争が起こらず、世界市場から孤立して「ガラケー」(ガラパゴス携帯)などと嘲笑されるようになった。

 「iPad」などのタブレット端末がこれからたくさん登場すると、インターネットの利用は無線が主流になる。それによって今後5年間に、必要な移動データ通信量は30~40倍になるというのがFCCの予想だ。