アップルのタブレット端末「iPad」が2010年4月、全世界で発売される。アマゾンの「キンドル」も、秋には日本語版が発売されると言われ、グーグルも近く電子出版システムを発表する予定だ。今年は、まさに「電子出版元年」である。

アップルが発売するタブレット端末「iPad」〔AFPBB News

 しかし残念なことに、こうした端末で読める日本語の電子書籍は、ほとんどない。世界の市場では米ソニーが発売する「ソニー・リーダー」がキンドルに次ぐシェアを持っているが、日本では売られていない。

 この背景には、日本の複雑な出版流通の問題がある。

 実はソニーは、世界で最初に電子書籍の端末を発売した。2004年に発売した「リブリエ」は、「Eインク」というキンドルと同じ電子ペーパーを使った6インチ画面の端末だった。というよりEインクがリブリエのために開発された素子で、6インチという画面サイズも日本の文庫本と同じだった。

 ソニーはリブリエで読むためのオンラインストアを、出版社15社と共同で作った。しかし出版社は違法コピーを恐れてDRM(デジタル権利管理)をかけたため、買った本は60日で消滅してしまう「貸本屋」だった。結果的にリブリエの業績は伸びず、2008年に日本での営業を終了した。

ネット配信を阻害する「著作権」という名の既得権

 これは音楽流通ビジネスとよく似ている。ソニーは、かつて携帯用音楽プレイヤー「ウォークマン」を開発し、世界的な大ヒット商品となった。デジタル音楽配信についても1999年に「メモリースティックウォークマン」を発売した。これはアップルの「iPod」より2年以上早かった。

 しかし、これはCBSソニー・レコードの音楽だけを配信するプレイヤーで、音楽配信の国際標準だったMP3ファイルを再生できなかったため、ほとんど売れなかった。レコード会社が違法コピーを恐れて、ATRACという独自フォーマットでしか配信しなかったからだ。

 これに対して後発のiPodはMP3をサポートし、すべてのメジャーレーベルの音楽を配信して急成長した(日本ではいまだにソニーの曲は提供されていない)。

 このように技術的に可能なネット配信が、著作権(と称する既得権)の過剰保護を求める流通側の閉鎖的な体質によってできなくなるケースが、日本では目立つ。

 ソニーがリブリエの販売から撤退した後、アマゾンもアップルもグーグルも日本の出版社と交渉しているが、同様の事情で難航している。このままでは音楽配信の轍を踏む恐れが強い。