ロシアの世界貿易機関(WTO)加盟問題も、唯一強硬に反対していたグルジアがスイスの調停案を受け入れることになり、いよいよ大詰めを迎えている。
債務問題で大揺れの欧州だが、今秋、EUや北大西洋条約機構(NATO)の高官がたびたびグルジアを訪れており、グルジア側譲歩の裏にはグルジアの欧州への統合について何らかの前進的サインとのバーターがあるかもしれない。
もっとも傍目には「見捨てていない」ことをアピールしているだけのようにも見える。一方、来年に国政選挙、2年後には大統領選挙が控えるグルジア政界内部では新たな権力闘争の火種がくすぶり始めた。
ウラジミール・プーチン首相の再登板表明やその後のユーラシア同盟構想、ウクライナのユーリア・ティモシェンコ元首相に対する有罪判決など、旧ソ連圏を巡る政治に様々な新しい動きが見られる。
「内憂外患」を退け、国内的には盤石の体制を築いているようにみられたグルジアのサーカシビリ政権にも10月に大きな衝撃が走った。
急な動きであるので、「グルジアとアフガニスタン」は1回スキップし、グルジア政局に久々に現れた本格的な「反対派」の動きについて簡単に紹介したい。
GDPの3分の1強の資産を持つ男
去る10月7日、グルジア一の大富豪として知られるビジナ・イヴァニシュヴィリ(ロシアではボリス・イヴァニシヴィリの名前で知られる)が、自らの政界進出とサーカシビリ打倒を目指した政治勢力の結集を突如呼びかけた(2日前に政界進出を表明)。
イヴァニシュヴィリは表舞台に立つことを極端に嫌う性格とされるが、ロシアの銀行(Rossiski Kredit )オーナーであり、フォーブスの富豪ランキングでは48億ドルの資産家として167位につけている。
グルジア全体のGDPは2010年で約117億ドルであるから、まさしく桁違いの富を有していると言えよう。
しかも、グルジアの首都トビリシに2004年に建設されたグルジア史上最大の聖三位一体教会をはじめとする各地の教会、トビリシの劇場・演劇人など文化施設、地方の文化遺産、薄給と年金手当の少なさに苦しむ学者など知識人への金銭援助など、バラ革命後のグルジアにおける様々な文化事業のパトロンとしてグルジアでは著名人のほとんどがその恩恵を受けていると言われるほどの有名人である。
また、ディナーに招待された旧友たちがテーブルナプキンを手に取ると、下には(プレゼントの)車の鍵がさりげなく置かれていたなど、伝説的話題に事欠かない立志伝中の人物である