かつてアメリカの中国研究学者であるジョンズ・ホプキンス大のランプトン教授が、米中関係を「同床異夢」と指摘したことがある。その状況は今も変わらない。

 ただし30年前に比べて米中関係が大きく変化しているのは、今のアメリカには中国を封じ込める力がなくなってしまったということだ。

 2010年に中国は世界で2番目の経済大国に成長した。一方、アメリカは100年に1度と言われる金融危機に見舞われ、経済力が急低下している。

 その中で、アメリカ経済の再生のカギを握るものと見られているのが、TPP(環太平洋経済連携)である。

メリットもデメリットも言われるほど大きくはない

 野田政権はTPPへの参加をアメリカから要請されてきた。民主党のこれまでの基地問題の失敗から、日本はアメリカの要請を拒否することはできないのが実情である。

 TPP参加を巡る世の中の論争を見ていると、賛成派の言うメリットと反対派の主張するデメリットのいずれも過大に語られているようである。

 TPP参加のメリットとして、関税の引き下げと非関税障壁の撤廃により製造業の輸出が増加することが挙げられている。一方、デメリットとしては、海外の安い農産物の輸入増により農業が深刻なダメージを被ることなどが言われている。

 だが、ここで気をつけなければいけないのは、現在、日本にとっての最大の輸出相手国はアメリカではなく中国だということである。中国はTPPへの参加を検討していない。したがって、TPPの参加で日本の製造業が輸出を大きく伸ばすことはない。日本の製造業の主戦場は中国だからである。

 一方、デメリットも、言われているほど深刻なものではないはずだ。現在の農業は高関税によって守られているが、食料の自給率(カロリーベース)は40%程度しかない。農業従事者はどんどん高齢化しており、どんなに農業を保護しても食料自給率はさらに低下していくだろう。つまり、食料自給率の低下はTPP参加によるものではない。