米連邦準備制度理事会(FRB)は2010年2月18日、公定歩合を0.5%から0.75%に引き上げた。2008年9月のリーマン・ショックを契機に一気に膨れ上がったバランスシート(B/S)を縮小するには、相当な時間がかかるだろう。遥か彼方の出口に向けて千里の一歩を踏み出したわけだ。

 しかし、その道程は険しく、多くの障害が待ち構えている。目先直面しそうなリスクは、景気が腰折れして10年前のゼロ金利解除に失敗した日銀の二の舞いになることだ。

大袈裟に報じられた「上限金利」引き上げ

FRB、公定歩合を0.75%に引き上げ

ワシントンD.C.にある米連邦準備制度理事会〔AFPBB News

 今回の措置を分かりやすくするため、まず「公定歩合」から解説したい。新聞の中には「公定歩合引き上げ」と1面トップで伝えたところもあったが、大見出しとは裏腹に実際は技術的な対応に過ぎない。

 「公定歩合」はかつて日銀も政策金利の主軸として活用しており、「公定歩合」の文字が1面トップに踊ることは珍しくなかった。しかし、その名称は2001年2月に消滅。「基準貸付金利」に生まれ変わり、政策スタンスを象徴する金利ではなくなった。

 「基準貸付金利」は、金融機関が市中で資金を調達しにくい時、日銀から資金を借りる際に適用される金利だ。現在の政策金利である無担保コール翌日物よりもある程度高い水準に設定されているが、担保さえあればいつでも利用できるので、実質的に市中金利の上限になる機能がある。

 FRBの「公定歩合」も、日銀の「基準貸付金利」と同様の機能を持つ。つまり、「公定歩合引き上げ」は「上限金利の引き上げ」に過ぎないのに、「公定歩合」という名称が仰々しいため、必要以上に大袈裟に報じられてしまったのだ。

FRBの狙いは、モラルハザードの防止

 FRBが上限金利の引き上げに踏み切ったのは、政策金利の主軸であるFF金利との差が極端に狭い状態が続いているためだ。

 本来、中央銀行から貸し付けを受けるのは、個別の金融機関が「やむなく」高い金利で「ちょっとだけ借りる」という程度のものだった。ところが、市中金利との差が小さいと、ハードルが下がり、いとも簡単に利用できてしまう。