世界経済が深刻な信用危機に見舞われる中、コーポレートガバナンスのあり方が改めて議論されている。かつて東アジア諸国が通貨危機に見舞われた1990年代末、欧米諸国の研究者は、「東アジアでコーポレートガバナンスがずさんだったから危機が起きた」と批判した。しかし、エンロンやリーマン・ブラザーズが倒産したのをきっかけに、アメリカの株主によるガバナンスが必ずしも万全ではないことが明らかになった。

 戦後の日本においては、メインバンク制が日本のコーポレートガバナンスの基本だった。メインバンクは自らの債権を保全するために、貸出先企業の経営をガバナンスするインセンティブが強く働く。また、株主によるガバナンスに比べれば、メインバンクの銀行員は経済と経営の知識があり、企業経営を監視することができると思われていた。

 しかし、98年に北海道拓殖銀行や日本長期信用銀行が破綻すると商業銀行自身の経営が問題となり、日本のメインバンク制は姿を消した。

不正が横行する本当の理由は?

 経済の高成長を続ける中国では、政府による経済統制が強化されている。20年前に中国は市場経済への制度移行を宣言したが、現在は政府による経済統制が強まり、改革は逆戻りしているように思われる。

 中国政府が経済統制を強化しているのは、「政財癒着が横行し、不正が多発しているから」というのが理由である。政府は「経済統制によって経済は高成長しているが、管理が不十分なため、不正などの問題が生じている」と考えている。

 だが、事実はまったく逆である。不正が横行するのは、政府による管理が不十分だからではない。国民による監督が認められていないからである。

 中国政府は「市場経済」への制度移行を宣言している。そもそも市場経済における政府の役割とは、市場メカニズムを最大限に尊重し、市場の失敗を補う補完的な役割を担うものである。その際、市場メカニズムが十分に機能するように、情報の開示を最大限に行わなければならない。

 しかし、中国の現下の経済運営を見てみると、以下のような状況である。

 第1に、政府は企業などの経済活動に恣意的に介入し、市場の信用秩序の乱れをもたらしている。第2に、国有企業は市場のプレイヤーとして市場を独占・寡占しており、情報開示も極めていい加減に行われている。第3に、政府も企業も利益を追求するあまり、きちんとコンプライアンスが果たされていない。