オーストリアの経済学者、ヨーゼフ・シュンペーターは「創造的破壊」という表現でイノベーション理論を提唱した。これまでの30年にわたる中国の「改革開放」政策は、まさに創造的破壊であった。だが、それは国民生活を豊かにする半面、街の伝統的な文化財などを破壊する「第二の文化大革命」と化している。

 振り返れば、約40年前に毛沢東は劉少奇などの政敵を打倒するために、若者を動員し、「文化大革命」と呼ばれる大衆運動を発動した。

 若者たちは毛沢東を守るために「紅衛兵」となり、毛沢東の革命に反対するすべての政治家や文化人を「反革命分子」と決め付け、摘発し、打倒した。

 しかし実際に打倒されたのは毛沢東の政敵だけではない。「紅衛兵」は暴徒化し、知識人や文化人を迫害するとともに、5000年の歴史と伝統文化を代表する寺などの文化財を、封建社会の象徴としてほとんど壊してしまった。

 晩年の毛沢東は側近に対して、「文化大革命というのは1回だけでは不十分であり、第2回、第3回の文化大革命をやらなければならない」と語ったそうだ。

北京で、南京で、恩寧で古い街並みが壊されている

 1970年代末、復権を果たした鄧小平は「経済発展こそ、この上なき道理だ」と号令し、二度と文化大革命のような大衆運動を引き起こしてはならないと宣言した。文化大革命で迫害を受けた鄧小平は誰よりも文革の恐ろしさを知っていた。それゆえに、このような発言をしたと思われる。

 鄧小平の真意は、中国の伝統文化を守ることよりも、二度と権力闘争に走ってはならないということにあるかもしれない。

 しかし皮肉なことに、鄧小平自らが号令した「改革開放」政策は、ここに来て第二の「文化大革命」と化している。