イランの大統領選挙の抗議デモ中にネダというイラン人女性が銃弾を受けて死亡する映像は、プロのカメラマンではなく、イランの一般市民が携帯電話のカメラで撮影したものだった。その後、この映像は画像共有サイトのユーチューブ(YouTube)などを通じて瞬く間に世界中へと広まり、新聞やテレビのニュースでも紹介された。
大手報道機関も、これまでどおりのニュース編集方針に、市民ジャーナリストからの貢献をどのように取り込んでゆくのかについて、新たな判断基準を検討することが求められている。
海外支局見直しの影響でジャパン・パッシングが加速する
さて、厳しい収益環境を反映して、欧米の大手メディアのアジア戦略にも変化の時を迎えている。依然として、日本は世界第2位の経済大国であることに変わりはないが、日本発のニュースが世界にアピールする力は急激に低下しているのが現実だ。
9月の民主党政権の発足に当たって、日米関係にどのような変化が予想されるか、ジョン・ルース駐日米国大使に単独インタビューした米公共ラジオ局NPR(National Public Radio)のルイサ・リム記者は、中国・上海にベースを置く特派員で、インタビューのためにわざわざ来日したのだという。実は、NPRは2003年に東京支局を閉鎖、日本に常駐している記者はいないのだ。
これは、海外メディアにとって、アジアにおける報道の中心が東京から中国に移ったことを示す象徴的な出来事と言ってもいいだろう。
2009年4月の上海モーターショーでは欧米メーカーがこぞって新型車を発表。かたや、東京モーターショーには海外の自動車メーカーの出展はわずか3社・・・。「ジャパン・パッシング」はあらゆる場面で起こっている〔AFPBB News〕
2001年、当時のNPR東京支局長だったエリック・ワイナー氏、そしてニューヨーク・タイムズ紙の東京支局特派員だったジェームズ・ブルック氏が異口同音に語っていたことを思い出す。「海外メディアの関心は中国にシフトしており、このままでは早晩、メディア報道において東京発のニュース発信は、ますます軽量化し、中国に報道の主軸がシフトする、いわゆるジャパン・パッシングが起きるだろう」
まさに、それが現実のものとなっている。
東アジア共同体構想を打ち出している鳩山首相だが、東京発の情報が世界に向けて発信される頻度が低ければ低いほど、日本の発信力は低下する。海外メディアによる、アジア関連国際ニュース報道の主軸が、中国にシフトしている中、日本を発信するための緻密な戦略も併せて考えなければ、真のリーダーシップを発揮することはできないだろう。