中国では5年に1度「熾烈な権力闘争が勃発」する。いや、「勃発」することになっている。党の最高機関である全国代表大会が5年毎に開かれ、総書記以下の重要人事が決まるからだ。特に1992年以降は、10年毎に政治局常務委員の大幅入れ替えがあり、事実上次の10年の指導者が誕生する。
2000年秋に北京に赴任して以来だから、個人的には今回が3度目の「権力闘争」となる。気の早い内外メディアは、「2012年の第18回党大会を前に、胡錦濤氏に代表される『共産主義青年団』派と、後継者の習近平氏に代表される『太子党』派による争いが繰り広げられている」などと推測記事を流し始めた。
でも、本当にそうなのか。マスコミが何気なく使う「団派」「太子党」「上海閥」「保守派」といったグループ分けは現実に存在するのか。それとも単なるレッテル貼りに過ぎないのか。
今回は筆者が過去11年間常に疑問に思いつつ、どうしても口に出せなかったこの素朴な疑問について検証することにしよう。(文中敬称略)
江沢民死亡説の意味
香港のテレビ局が江沢民前国家主席が死去したと「誤報」したのは7月6日の夜だった。
中国外交部は直ちに否定したが、全体主義国家において最高権力者は簡単には死ねない。江沢民の「七光り」で出世してきた党幹部たちは、この時期の「死去」によって親分の権威が消滅しては困るのだという。
それから2週間後の7月23日、今度は1999年からカナダに逃亡していた建国史上最大の密輸汚職事件の首謀者が12年ぶりで中国に送還された。
この事件には当時、福建省党委書記で現人民政治協商会議主席・賈慶林の夫人が関与していたが江沢民はこれを庇った、などとまことしやかに報じられた。
それだけではない。本年2月には劉志軍鉄道部長が重大な規律違反(つまり汚職)で解任されたが、同部長を江沢民前総書記が抜擢したことはよく知られている。
今回の高速鉄道事故を機に、現政権が江沢民派の牛耳る利権の巣窟・鉄道部の掌握に動くことは間違いないとも報じられた。