温州で起きた高速鉄道事故の処理を巡り、中国政府に内外の批判が集中している。
中国では犠牲者家族が政府批判の急先鋒となり、国内メディアも政府の人命軽視と隠蔽工作を暗に非難している。このこと自体が海外メディアでは大きなニュースになった。
本邦主要紙社説の見出しも、「安全軽視が招いた大事故(読売)」「理解しがたい中国の事故対応(日経)」「安全より国威発揚優先(毎日)」「心配していたことが(中日)」「安全置き去りの国威発揚(産経)」と手厳しく、あの朝日新聞ですら「背伸びせず、原因究明を」などと苦言を呈している。
さらに、日本のマスコミの一部では、今や中国共産党の絶対的な指導力に陰りが見える、従来のような金や力で抑え込むやり方は最早通用しない、こんな場当たり的対応は続けられない、などと奇妙な期待を込めて報じている。
果たして本当にそうなのだろうか。この素朴な疑問が今回のテーマである。
各関係者の「正しい」判断
今回の高速鉄道事故の関係者と言えば、共産党の国家指導者レベル、党中央・国務院レベル、鉄道省中央幹部レベル、鉄道部地方幹部レベル、犠牲者家族、公安および国内マスコミだろう。
興味深いことに彼らの行動を個別レベルで見ると、それぞれが中国的には「正しい」判断を下していたことが分かる。
まず、国家指導者だ。
高速鉄道は国威高揚のシンボルだったが、鉄道事故の数十人程度の死者ごときで党政治局常務委員が政治責任を取る必要はない。そもそも鉄道部は本年2月に汚職問題で部長(閣僚)を更迭されたばかりではないか。政治局常務委員会は絶対に「無関係」でなければならない。
そこで党中央・国務院は、事故現場を管轄する上海鉄道局の局長、副局長、共産党書記らを解任するとともに、国内メディア関係者に対し関連報道を自主規制するよう通達を出す。